ウエリントンの気候リサーチ

― 気候科学と資本市場の知識の融合 ―

気候変動リスクを可視化する「統合空間ファイナンス」

ウッドウェルとの共同調査では現在、気温上昇、森林火災、干ばつ、水不足、ハリケーン、洪水の6つに焦点を当て、それらの原因となる気候の変化や変動の要素を明らかにし、最適な指標を策定。その指標データを地理空間情報に取り込み、金融市場や経済・産業・企業の動向や知見などと統合し、気候変動による資本市場への影響を可視化します。この調査プロセスを「統合空間ファイナンス」と呼びます。

こうした調査の結果、多くの物理的リスクが想定よりも深刻であるばかりでなく、近い将来に発生する可能性があることが判明しました。一部の地域では複数のリスクに直面していることも明らかになっています。

ウエリントンでは、「統合空間ファイナンス」のマップを活用しながら、その地理空間情報を投資対象企業や保有資産の特徴などと照らし合わせます。そして、類似の特徴や価格でありながら気候変動の影響が異なる有価証券や不動産物件などを比較検討し、投資判断に反映させています。

「統合空間ファイナンス」のマップは、気候変動の物理的リスクが事業にどう影響を与えるかといった意識喚起を促すなど、企業や発行体とのエンゲージメントでも有効です。

気候要素の測定に
最も適した
指標を特定
指標を地理空間
情報に取り込み
地域ごとに
変化を示す
その地理空間情報を
投資対象企業や
保有資産の特徴などに
照らし合わせる
類似の特徴や
価格でありながら
気候変動の影響が
異なる有価証券
などを分析

物件種類は同じながら、物理的リスクが高い赤いエリアの ショッピングセンターは、将来、ハリケーンなど気候変動の 物理的リスクの影響で資産価値が大幅に下落する可能性があ ります。さらにウエリントンでは、州政府の財政状況や気象 災害への対応力、保険の有無、保険料、税制の影響などを加 味して分析を深めています。

cases-study
cases-study

「気温上昇」と「ハリケーン」の2種類の気候変動による事象を取り込んで制作したマップです。①のテキサス州と②のミシガン州の地方債の格付けは同水準のAAです。しかし、気候変動リスクの高いテキサス州は、気象災害の多発により莫大な財政負担が発生し、格下げの可能性が相対的に高いといえます。

気候変動リスクの
情報開示の枠組み
「気候変動の物理的
リスク(P-ROCC)」

ウッドウェルとの共同調査を進める中で、物理的リスクが企業の事業や財務に及ぼす影響の情報開示が不十分であることが明らかになりました。2019年に、カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)の協力のもと、ウエリントンは企業の経営陣が物理的リスクシナリオを経営戦略や情報開示に盛り込む際の指針となる枠組み 「気候変動の物理的リスク (P-ROCC)」を策定しました。

この科学的根拠に基づく枠組みを基準に、投資対象企業と対話を重ね、物理的リスクの評価と気候変動の影響へのレジリエンス(耐性・回復力)に関する情報開示の強化を働きかけています。