グローバル市場見通し:2023年第4四半期

経済の悪材料は市場の好材料となるのか?

2024-01-17
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要旨

  • 世界経済は底堅さを維持していますが、過去のサイクルより長く遅れていた利上げの効果が現れ始めており、労働市場と住宅市場に冷え込む兆しがみられます。引き続き株式やグロース債券と比べてディフェンシブ債券を選好しています。
  • 世界全体の国債については、「利上げ長期化」が経済成長を減速させているため、小幅オーバーウエイトを維持しています。日本の実質利回りは最もマイナスである一方、欧州の経済成長鈍化および米国の高い実質利回りは、より良い相対価値をもたらすと考えています。クレジット・スプレッドのタイト化については、利回りが上昇した分インカム収入が短期的にリターンの大部分を占める可能性が高まっているため、あまり悲観的な見方をしていません。ただし、バリュエーションは割高(スプレッド縮小分)であるため、デフォルト率の上昇に対してまだわずかなクッションしか提供していません。
  • 日本については、経済がインフレ率の上昇から恩恵を受けているため、先進国株式の中で引き続き日本を最も選好しています。中国については、中立の見通しに引き下げています。景気回復の兆しが生じており、株式のバリュエーションはかなり低いものの、不動産市場および地政学的状況が逆風となっています。 
  • インフレは高止まりし、過去数十年より高い水準で落ち着くと予想しているため、コモディティに対して前向きの見通しを維持しています。電化に伴う銅需要が供給を大きく上回る可能性が高く、金はスタグフレーション(景気停滞とインフレの同時進行)に対する有効なヘッジになると予想しています。
  • 下振れリスクとしては、ハードランディング、米国の政治的な混乱、中国における銀行または不動産の危機、ウクライナ戦争の激化、米中間の緊張などが挙げられます。 上振れリスクとしては、米連邦準備制度理事会(FRB)の引き締め策が十分にインフレを抑制する一方、経済成長がトレンドに近い水準を維持する、「ゴールディロックス(適温経済)」のシナリオが挙げられます。 

2023年の大半にわたり、経済にとっての悪材料は、市場にとっての好材料でした(第1局面)。例えば、米国労働市場の緩和は、経済成長とインフレが鈍化し、FRBがソフトランディングを達成できるという兆しとして、リスク資産により好感されました。しかし、今やこの関係は逆方向に展開しています。予想より底堅い経済がターミナル・レート(利上げの最終到達点)予想を長らく引き上げ、株価の低迷を引き起こしています(第2局面)。一方で、依然として逼迫している労働市場およびコモディティ価格の上昇は、企業や消費者が利上げの影響をまだ十分に消化していない中、インフレ圧力が継続していることを示唆します。これは、経済と市場の関係が第3局面に入り、経済の鈍化が市場にとって悪材料になることを意味する可能性があります(図表1)。

図表1

世界経済全体でサービス業は下落傾向
先進国の購買担当者景気指数(PMI)

Bloomberg Finance LP、S&P Global Developed Market PMIのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。データ期間(製造業):1998年1月~2023年8月。データ期間(サービス業):1998年6月~2023年8月。

今後の見通しについては、予想以上に時間がかかったものの、利上げは世界経済に打撃を与えるため、やや慎重な投資スタンスがまだ妥当であると考えます。また、本稿執筆時点(2023年9月)において、米国政府閉鎖の可能性、原油価格の高騰、米ドル高など、まだ顕在化しつつある多くのリスクを注視しています。とはいえ、株式や不動産の値上がり益による家計の純資産増加、消費者や企業が固定したパンデミック時代の低金利、豊富な流動性など、幾つかの好材料を過小評価していたことから、米国経済の底堅さについて楽観的にみています。

リスク資産の高いバリュエーションおよび遅れたものの視野に入っている金融引き締め策の影響を考慮し、リスク資産はディフェンシブ債券をアンダーパフォームすると予想しています。しかし、グローバル株式およびクレジット・スプレッドのアンダーウエイトを縮小しており、アクティブ・ウエイト全体で中立の見通しに近づけています。日本については、最も確信度の高い見通しを維持しています。日本株式は、経済およびコーポレート・ガバナンスの改善をようやく織り込み始めてきた一方、金融引き締めが遅れたことで、実質利回りはマイナスの領域に留まっており、他の地域と比べて割高です。スプレッド・セクターの中では、グローバル投資適格社債を選好しています。コモディティについては、銅と金を中心に小幅オーバーウエイトを維持しています。

投資への影響 

引き続きクオリティ株を重視 ― 景気回復の兆しは見られるものの、金融引き締め策が経済システムに影響を及ぼし始めており、今後さらに経済成長を減速させ、業績を圧迫するとみています。セクターを問わず、強力なバランスシートを有し、景気循環圧力に耐えうる企業を選好します。生成人工知能(AI)がさまざまなセクターや企業に影響を与える可能性はあるものの、広範なハイテク銘柄の今後の上昇を追い求めることはないでしょう。

日本株式の現状および長期的な見通しに注目 ― 日本株式は年初来、他地域をアウトパフォームしており、景気回復とコーポレート・ガバナンスの改善という独自の組み合わせにより、日本株式にはさらなる上昇余地があるとみています。輸出企業は引き続き円安の恩恵を受けると考えます。

より良い相対価値を提供する債券を追求  ― 欧米の利回りが急上昇し、欧州の景気減速が顕著になっていることから、日本国債より欧米国債を選好します。また、グロース債券のクレジット・スプレッドは景気後退リスクを織り込んでいないため、高格付けの債券を選好します。

さらなる機会への備え ― 経済成長とインフレのミックスが悪化すると、企業利益率やクレジット・ファンダメンタルズを圧迫するでしょう。スタグフレーション・リスク、地政学的状況の悪化、米ドル離れに直面する中、金を選好しています。銅はエネルギー転換において重大な役割を果たすものの、供給面では制約があることから、良いインフレ・ヘッジになる可能性があります。私たちは、市場のリプライシング(価格調整)に備え、機会を見逃さない様にリスクを織り込む必要があるでしょう。

Nanette Abuhoff Jacobson

ナネット・アブホフ・
ジェイコブソン

グローバル・インベストメント兼
マルチアセット・ストラテジスト
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スプリヤ・メノン

マルチアセット・ストラテジー・ヘッド(EMEA)
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アレックス・キング

インベストメント・ストラテジー・
アナリスト