日本の株主アクティビズム:

ESGインテグレーションの実践

2024-09-26
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3回にわたる日本の株主アクティビズムのシリーズの第一稿および第二稿では、日本における株主アクティビズムの歩みと進化を振り返るとともに、エンゲージメントおよび企業価値向上に対する日本株式運用チームのアプローチをご紹介してきました。本シリーズの最終稿となる本稿では、当社のESGチームと日本株式運用チームが連携し、企業に対する積極的なエンゲージメントを通じて、関連するポートフォリオにおける投資価値の実現を支援する手法についてご紹介します。

ESGをめぐるウエリントンの理念と担当チーム

私たちは第一に、ESGをめぐる重要課題は株価のパフォーマンスに影響を及ぼし得る経営戦略事項であると考えています。ESGに関する課題を理解することにより、十分な情報に基づく的確な投資判断が可能になります。第二に、私たちは十分な情報に基づくアクティブ・オーナーシップ(株主としての企業への積極的な働きかけ)により、お客様の利益につながる企業行動を促すことができると考えています。私たちはこの2つの理念を踏まえて、ESGに対する譲歩なきアプローチを確立しています。

図表1:ESG課題をパフォーマンスに反映させる方法 

出所:ウエリントン・マネージメント。2023年9月時点。※上記はあくまで例示目的で示しています。

当社のESGアナリスト・チームは、その多くがファンダメンタル投資に従事した経歴を持ち、当社の広範な投資リサーチ・リソースの構築に寄与しています。同チームのカバレッジは、地域およびセクターごとに分かれています。こうした体制により、運用目線で、各地域とセクターの特性に応じた柔軟なESGインテグレーションを行っています。

図表2:統合型アプローチによる企業評価 

出所:ウエリントン・マネージメント。2023年9月時点。※上記はあくまで例示目的で示しています。

守りの手段としてのエンゲージメント

日本国内で活動するアクティビストファンドの数は増加傾向にあります1。アクティビストが関心を寄せるトピックの多くはガバナンスに関するもので、具体的には、取締役会の男女構成をめぐる改革、株主還元、株式持ち合いの抑制などが挙げられます。また、環境をめぐる取り組みに関する情報開示を重視するアクティビストも増えています。

図表3:日本国内で活動するアクティビストによる日本株式への投資額推移 

出所:IR Japanのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2023年2月時点。

しかしアクティビストの利益が、必ずしも投資家の長期的な利益や当社のお客様の利益と一致するとは限りません。業界の調査によると、アクティビストの平均投資期間はわずか4~6四半期となっており、さらにアクティビストの強引な要求が往々にして取締役会の混乱や困惑を招き、結果的にその企業に不利益をもたらすことも考えられます。

こうした事情を踏まえ、私たちは、アクティビストがその強権を発動する前に、投資先企業がより良い体制になるよう支援することこそが受託者責任であると考えています。日本株式運用チームは、一貫してこの考え方にもとづき、ESGチームと連携しながら以下の手段により業務を遂行しています。1) 企業との長期的な関係構築により取締役会へのアクセスを確保することで、企業に必要なサポートとアドバイスを提供します、2) 株主総会シーズンに向けて、書簡を通じ、日本固有の議決権行使ガイドラインとその根拠を明確にお伝えします、3) 議案の内容によっては経営陣に対して積極的に反対票を投じます、4) 必要と判断した場合は、取締役会に対する書簡を通じて正式な勧告を行います。

最近の事例をご紹介しましょう。日本のある機械メーカーは、中核事業の分野で技術面および市場シェアともにトップの地位を維持していたにもかかわらず、経営面では競合他社の後塵を拝していました。さらに同社の株価は簿価を下回っており、 貸借対照表には余剰資金が見られました。私たちは、多様な経験とグローバル規模のケーススタディにもとづき、こうした財務特性がアクティビストを惹きつける可能性があると考えました。

2023年初頭、当社のESGチームは、日本株式運用チーム、グローバル産業アナリスト(GIA)と連携し、同社に対してエンゲージメントを実施し、先制的な防御体制の強化を目的とした以下のような対策の実行を勧告しました。1) TOPIX100企業の平均在任期間である5年を大きく上回る10年以上在任の役員の入れ替え、2) 創業一族が過剰な権利を保有する現状の解消に向けた、委員会の独立性の強化、3) 非中核事業の見直し。このエンゲージメントは、長期的な価値創出をめざして私たちがが同社に対して継続していたエンゲージメントの一環であり、これにより同社は、取締役会の独立性の強化、取締役に対する譲渡制限付き株式制度の導入、自社株買いの拡大を実現しました。

攻めの手段とてのエンゲージメント

エンゲージメントは、守りのみならず攻めの手段としても有効であると私たちは考えています。この理念を的確に表しているのが日本のある自動車メーカーの事例です。この事例では、当社の日本株式運用チーム、ESGアナリスト、GIAの三者からなるチームが、積極的な議決権の行使とエンゲージメントを通じて同社の長期的な価値向上を支援しました。2020年10月以降、私たちは同社の取締役会に対して、投資利益、財務体質の最適化、取締役会の構成見直し、脱炭素化に関する取り組みの開示に関する3通の書簡を送り、さらに複数回にわたりエンゲージメントを実施しました。

オーナーシップをめぐるこの積極的な働きかけが実を結び、同社は2023年に以下のような具体的な成果を達成しました。

  • 配当性向を25%から40%へ大幅に引き上げ
  • 自己株式の一部を消却 (13%中8%)
  • 経営陣以外の取締役を増員 (18%→38%)、ならびに多様性を強化 (0%→15%、女性取締役を2名任命)
  • ネットゼロ排出削減目標を策定、ならびに気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の勧告にもとづき気候関連の取り組みに関する情報開示を改善
  • さらに一連の改善が寄与して実現した最も重要な成果として、対TOPIXの好調な株価パフォーマンスを受けた株式の格付け変更
図表4:ある自動車メーカーの株価対TOPIXの推移

出所:ブルームバーグのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2023年8月28日時点。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

まとめ

日本における株主アクティビズムの機会と特性を理解することは、日本市場に参入する投資家が価値創造を実現する上で重要であると考えます。積極的なエンゲージメントを投資プロセスへ組み込んできた日本株式運用チームの長年の実績、当社ならではのグローバルな規模および一元化された投資リサーチ機能を一体化することにより、私たちはお客様のソートパートナーとして、投資判断の確信度を高め、優れた運用成果を提供できると考えます。

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ス-ホー・ジュン

ESGアナリスト