日銀の政策転換:

YCC修正の市場への影響

2024-08-31
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イールドカーブ・コントロール(YCC)運用の柔軟化へ

日銀が7月の金融政策決定会合でイールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟な運用を決定し、10年金利の変動幅は従来と同じ「0%±0.5%程度」とするも、指値オペの水準を10年0.5%から10年1.0%に引き上げました。これにより、長期金利の上限が事実上1.0%に引き上げられ、実質的にはYCC廃止に近いと考えられます。

日銀は2%の物価安定目標の持続的・安定的実現はまだ見通せないためYCCは継続と説明した一方、インフレの上振れリスクを警戒しYCCレンジ上限を柔軟運用としました。ファンダメンタルズに基づいた金利上昇は一定程度許容することで、今後の経済物価データ次第では正常化期待が高まっていくことになるとみています。

政策変更の重要性

今回の決定は、日本経済にインフレが戻りつつあるという政策当局者の最初の認識であり、グローバルの主要中銀の正常化トレンドにやっと仲間入り(絶対値では大分遜色するが)する形となりました。ドル円にとっては短期的に米国景気および米連邦準備制度(FED)の金融政策行動に左右されると想定するものの、実質的にはYCC廃止に近いため、中期的に昨年を通じて大幅に下落した日本円(JPY)の上昇にいずれ追い風となるとみています(図表1)。

図表1:米ドル/日本円のスポットレートの推移

出所:ブルームバーグのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

市場インプリケーション

10年物JGB(日本国債)の利回りは即座に0.5%をわずかに上回る水準に上昇しており、これは2014年以来見られない水準となっています。日銀は2023年7月末の発表が金融安定に与える潜在的な影響には敏感で、そのスピードは注視していくことになると想定します。ただし、10年金利が1%への調整は必然的に(徐々に)起こることが予想されます。

  • 政策設定が引き続き緩和的(相対的に)であるため、今後数年間の名目成長率は4〜6%の範囲になると予想されていることを受けて、日本資産(特に株式)に追い風となっています。
  • 最も影響が受けやすい市場はグローバル債券市場であると考えており、最後の砦(アンカー)であったハト的な日銀の政策転換こそ、大きく乖離があった円金利の上昇により世界の金利上昇トレンドの制約が取り除かれていくことを予想します(図表2)。
  • アベノミクス以降海外に目を向けていた国内機関投資家にとっては、金利上昇によって日本国債はますます魅力的な投資先となる可能性があるため、国際市場から日本国内市場へ緩やかなシフトが(有事の際の資本逃避も)起こると考えられます。
  • FEDと 欧州中央銀行(ECB)は利上げ終盤に差し掛かっており、多少ハト派的なトーンを取り始める場合、グローバルではよりスティープな金利カーブに転じる可能性があります。日本では短期金利が依然としてマイナス近辺に抑制されている一方、他の先進国中銀の利上げが頭打ちになるなか、より高いインフレ期待が織り込みし始める、金利カーブの長期債金利が上昇する可能性があります。
図表2:グローバルの10年金利推移

出所:ブルームバーグのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

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駱 正彦(ろう まさひこ)

インベストメント・ディレクター
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マルコ・ジョルダーノ

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