the next generation of pharmaceutical innovation

アナリスト・インタビュー

次世代の医薬品イノベーション

2023-10-18
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足元のヘルスケアおよび医薬品セクターの概況は

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、製薬業界はチャレンジング、かつ非常に興味深い時期を切り抜けてきました。ワクチンや治療薬の迅速な開発は素晴らしいことです。ヘルスケア・セクター全体に目を向けると、他のセクターと同様、コロナ禍で活動が停滞し、様々な変化が起きました。世界中の人々にとって医療サービスとの関わり方が変わり、その一部は今後も定着することが予想されます。受診を控え手術を延期するといったコロナ禍の一時的な影響は徐々に解消し元に戻りつつありますが、診断の遅れや機会を逃したことによる長期的な影響はこの先何年も残る可能性があります。しかし、製薬業界がコントロールできること、つまり治療薬の開発・提供には大きな期待が持てます。

新薬の開発は患者の治療はもちろん、製薬業界が健全であるためにも重要です。なぜならば、製薬大手では今後5~10年間で数多くの医薬品が特許切れを迎え、新薬の開発が経営のカギを握っていくからです。また、小規模企業を含め、業界の他の分野では、多くの企業が厳しい状況に直面しています。ただし、開発パイプラインの進展と規制や政治情勢の緩和を追い風に、資金調達を含め経営環境は改善に向かうでしょう。

新興国市場のヘルスケア企業の現状、ビジネスチャンスやリスクは

新興国市場でのヘルスケア企業への投資機会は地域によって異なります。私たちが調査や投資の対象としてきたイノベーションの大半は米国、欧州、日本が中心でしたが、その傾向は大きく変化しています。特に中国では、業界全体の変革、起業、バイオ医薬品企業による革新的な新薬開発など、目覚ましい発展を遂げています。私たちは中国の製薬企業に加え、CRO(医薬品開発業務受託機関)やがん治療薬開発に関わる分子診断事業など、医薬品に関連する企業や産業にも投資機会を見出しています。

ヘルスケアサービスの分野では、特に経済成長とともに医療需要が急増する中、民間セクターが貢献できる余地が大きいと考えます。この分野では画期的なビジネスモデルも登場しています。例えば、医療費などのインフレが加速している中南米では、医療保険サービスと病院経営を垂直統合することで低コストのサービスを提供している企業に注目しています。また、ヘルスケアのサブセクター、いわゆる医療製品では輸入に頼らず国産で代替する動きがみられ、これまで多国籍企業から調達していたインプラント(体内埋め込み)型医療機器や他の医療製品でも国産化を進める国が増えています。

医薬品セクターやそのイノベーションにおける短期・長期の成長機会とは 

バイオ医薬品の分野では、多くの投資機会が期待できます。当然ながら、がん治療は注目度の高い領域です。特にがん免疫療薬などは、この10年間で目覚ましい発展を遂げました。しかし、依然として多くのがんは治療が難しいため開発の余地は大きく、今後の進展が期待されます。このほか、自己免疫疾患もこの15年間で生物学的理解が深まり、新しい治療薬が開発され著しい進展がみられます。その一方で、潰瘍性大腸炎や関節リウマチなど、治療法が確立されていない特定の自己免疫疾患では課題は山積しています。他の自己免疫疾患についても薬剤の投与方法など、改善の余地があります。多くの新薬は点滴・皮下注射による生物学的製剤のため、今後、例えば経口薬が開発される可能性もあるでしょう。

長期的には、新薬を支える最新技術がより一般的に広がっていくと思われます。例えば、ADC(抗体薬物複合体)はがん治療で実用化が進んでいます。この薬を用いることで正常な細胞を避け、がん細胞に絞って攻撃でき、より安全に細胞傷害性抗がん剤あるいは化学療法の使用が見込めます。このほか、体内のタンパク質を改変するゲノム編集技術を用いることで、高コレステロール血症など慢性疾患を持つ数百万人の患者に影響を与えると期待しています。

技術革新や新薬のパイプラインの中で、今後治療が見込める疾患や期待できる治療薬は

私が最も注目しているのが肥満治療と肥満の根本解明です。従来2型糖尿病患者の血糖値をコントロールし下げる目的で使用されてきた薬剤が、減量効果があることが明らかになりました。これは特に過体重の患者にとって重要です。長期的な効果はまだ研究段階ですが、心血管系リスクのほか高齢者の心臓発作や脳卒中、代謝性疾患に伴う早期死亡リスクに効果があるとみられます。

足元の投資環境におけるヘルスケア・セクターのディフェンシブ性についてはどう見ているのか

ヘルスケア産業はどのような経済環境でも一定の需要が存在するため、比較的ディフェンシブ性(守り)が強い産業と考える人も多いでしょう。投資ユニバースの中でも、企業のレジリエンスと景気循環を通じた株価の観点から、大型株の製薬企業はディフェンシブ性が最も強いと考えます。それ以外にも、例えば医療費抑制と医療の利用率管理を目的とするマネージドケア事業を手がける企業もディフェンシブと言えるでしょう。

ウエリントンのヘルスケア運用チームやリサーチの強みは

私はウエリントンのヘルスケア運用チームの一員であることを誇りに感じています。チームは約20人のグローバル産業アナリストとポートフォリオ・マネージャーで構成しています。

運用チームは欧州、米国、アジアなど、様々な文化的背景と専門的経験を持ち合わせています。金融業界だけでなく、コンサルティング企業や学術機関、医療機関の経験者も名を連ねています。こうした多様性が私たちの企業リサーチや銘柄選択に役立っています。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大をきっかけに、科学と人間の努力が命を救えることが再認識され、製薬業界に改めてスポットライトが当たりました。

バイオ医薬品、医療機器、ヘルスケアサービスなどのサブセクターを含めたヘルスケア全体では、私たちヘルスケア産業の専門アナリストにとって企業を調査しポートフォリオを構成する絶好の時期と考えます。

 

Rebecca Sykes

レベッカ・サイクス

グローバル産業アナリスト