グローバル市場見通し:2024年第2四半期

ファンダメンタルズはリスクオンを支持するか?

2024-07-31
アーカイブ info
アーカイブの記事内の作成者の見解は、過去の作成時点の情報に基づくことをご留意ください。
95145-maoartwork-final2

要旨

  • 経済成長と企業収益は、特に米国において、引き続き予想を上回っています。バリュエーションには割高感があるものの、ファンダメンタルズと経済・金融政策はリスクオンを支持しており、ポジティブなセンチメントを維持する考えています。私たちは、グローバル株式とクレジット・スプレッドに対して小幅オーバーウエイトの見通しです。
  • 株式の中では、欧州と新興国より米国と日本を選好しています。米国は、マクロ経済環境および人工知能(AI)が引き続き収益成長を下支えする可能性への確信度を背景に、先進国株式の中で最も選好しています。日本に対しては小幅オーバーウエイトの見通しです。中国については、不動産および消費者信頼感における問題を考慮して、大幅な改善が見られることはないとの懐疑的な見方を維持しています。
  • デュレーションに関する確信度は低く、国債に対して中立の見通しを維持しています。米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ時期はまだ分からないものの、欧州中央銀行(ECB)は、米国より明白なディスインフレ環境と弱い経済成長を踏まえ、より早期かつ大幅に利下げを行う可能性があると考えています。スプレッド・セクターについては、良好なファンダメンタルズとテクニカル環境を背景に、小幅オーバーウエイトの見通しに引き上げました。スプレッド・セクターの中では、米国ハイイールド債より欧州ハイイールド債を選好しています。
  • コモディティに対する見通しを中立に引き下げました。引き続き長期的にインフレ上昇を予想していますが、原油と金の割高なバリュエーションは、より良い投資タイミングまで待つことを示唆しています。
  • これらの見通しに対する下振れリスクとしては、インフレ率の急騰とFRBの引き締め政策への転換により引き起こされるハードランディング、またはインフレの高止まりと経済成長の鈍化というスタグフレーションのシナリオなどが挙げられます。上振れリスクとしては、トレンドを上回る経済成長が持続するもののインフレは上昇しないという、基本シナリオよりさらに良好な環境などが挙げられます。

市場の観点から見ると、「ニルバーナ(ねはん)」に近い環境と言えます。経済成長は予想を上回り、インフレ率は低下し、企業収益は割高なバリュエーションを支え、金融環境は緩和的です。当然ながら投資家のリスク許容度は再び高まっています。重要な点として、中央銀行は、市場の利下げ期待を和らげるよう努めており、信用できると見られています。政策ミスの影響は、どの地域の市場も十分に理解しています。緩和が早過ぎれば、方向転換して、より積極的に引き締めを行わざるを得ず、景気後退の可能性が復活するリスクがあります。緩和が遅過ぎれば、制約的な政策の累積効果により経済が景気後退に転じるリスクがあります。

こうした環境は出来すぎと考えられる一方(類似例は過去1995年~1996年の期間のみ)、米国の選挙が念頭に浮かぶものの、今後6カ月にわたり持続的に環境を悪化させる可能性があるリスクを見極めることに苦慮しています。しかし、米国の政治的混乱が良好なリスク環境を脅かしても、中央銀行は、現在の政策を制約的と見ていることから、それに対応して利下げを行う選択肢を有しています。

私たちはファンダメンタルズとテクニカル環境に対する確信度をより高め、グローバル株式とクレジット・スプレッドに対する見通しを小幅オーバーウエイトに引き上げました。バリュエーションが割高でなければ、より強いオーバーウエイトの見通しに引き上げたかもしれません。株式の中では、欧州と新興国より米国と日本を選好しています。米国では、マグニフィセント・セブン(米国主要テクノロジー企業7銘柄)の収益力を踏まえると、AIを変革的なテクノロジーとして認めないわけにはいきません。また、日本に対する見通しを小幅オーバーウエイトに引き下げたものの、最近の賃上げが個人消費を促進するため、日本にはまだ一段の景気回復の可能性があると考えます。

市場は今や、中央銀行の2024年内の利下げを織り込んでいるため、デュレーションに対して中立の見通しです。米国債に対する欧州のデュレーションのロングに相対価値があると見ています。米国の経済成長は欧州より遥かに堅調で、欧州におけるディスインフレの傾向は明白になっています。クレジットについては、見通しをアンダーウエイトから小幅オーバーウエイトに引き上げました。バリュエーションは割高ですが、良好な経済環境と強いインカム需要を踏まえ、当面は割高な水準に留まる可能性があると考えています。欧州ハイイールド債についても、米国ハイイールド債より妙味があると見ています。

投資への影響

株式への配分の引き上げを検討 — 世界的な経済環境の改善は、より慎重な利下げが予想されるものの、バリュエーションおよび継続的な収益拡大を支えると考えられます。

株価上昇の広がりを予想 — 株価上昇がマグニフィセント・セブン以外にも広がる兆候が見られ、それはバリュー株や小型株などの出遅れてきた一部の市場分野に恩恵をもたらす可能性があります。地域別では、米国と日本を選好するとともに、欧州に対する見通しを引き上げました。セクター別では、エネルギー、金融、一般消費財・サービスを選好しています。 

デュレーションに対して中立のスタンスを維持し、クレジットをオーバーウェイト — 先進国の金利は適正に織り込まれていると見ています。しかし、ECBはFRBより早く利下げに踏み切る可能性が高く、そうした政策の乖離において投資機会が見込まれます。クレジット・スプレッドは、ファンダメンタルズの良好な環境、予想デフォルト率の低下、機関投資家の強い需要を背景に、当面はタイトな水準に留まる可能性があります。

良好な市場環境への期待が阻害される可能性 — リスクオンを選好するものの、米国大統領候補者間で全く異なる政策や市場への影響による2024年後半のボラティリティを懸念しています。地政学的緊張の高まりもボラティリティを高める可能性があります。

Nanette Abuhoff Jacobson

ナネット・アブホフ・
ジェイコブソン

グローバル・インベストメント兼
マルチアセット・ストラテジスト
menon-supriya-10018

スプリヤ・メノン

マルチアセット・ストラテジー・ヘッド(EMEA)
king-alexander-7545

アレックス・キング

インベストメント・ストラテジー・
アナリスト