macro renaissance the opportunity ahead for investors

グローバル・マクロ運用の復活、投資の好機到来

2023-10-28
アーカイブ info
アーカイブの記事内の作成者の見解は、過去の作成時点の情報に基づくことをご留意ください。

世界の金融市場は、新たな、そして、一部の投資家にとっては居心地の悪い方向へと急速に変化しています。金利は上昇し、バリュエーションに影響を与えています。市場と景気の変動性は高まり、資産クラス間の相関性は過去10年間とは大きく異なるようにみえます。この環境は、多くにとって、これまで経験したことのない困難なものであるかもしれません。

しかし、アクティブ運用、特に、ロング・ショート戦略は、この環境変化から恩恵を受けるとみています。市場の不確実性が活用可能な資産価格の格差拡大につながるため、アルファ創出の機会が加速度的に増加する可能性があります。様々なアクティブ運用スタイルがある中で、新たな環境に最も適合するのはマクロ運用戦略であると考えます。マクロ運用は歴史的に、ボラティリティが上昇し、経済や資産のトレンドが明確なパターン、あるいは、逸脱を示すときに優位性を発揮してきました。重要なのは、足元で市場に影響を与えているマクロ経済要因が今後何年も有効であり続ける可能性が高いことです。端的に言って、現在の状況は何十年ぶりかのグローバル・マクロ運用のルネサンス(復活)を告げるものではないかと考えています。

低インフレ時代の終焉と市場への影響

グローバル・マクロ運用の魅力を今主張するのは、過去20年以上に及んだ低位安定のインフレ環境に変化が生じているためです。この低インフレの時代を特徴付け、そして支えたのは、テクノロジー、人口動態、グローバル化など、プラスの供給ショックをもたらした強力なトレンドでした。これらはすべて世界的な生産性の向上を促しました。この状況が市場や政策担当者に供給は果てしなく弾力的で、どのような水準の需要に対しても適応できるとの印象を与えました。インフレ率が低位で安定していたため、中央銀行が完全雇用を目標とする際に、インフレ期待の上昇というリスクに配慮する必要はほとんどありませんでした。金融緩和政策は低金利、場合によってはマイナス金利につながり、それは資産価格を押し上げ、高いバリュエーションを支え(図表1)、市場のボラティリティを抑制しました。この状況は、言うなれば、パッシブ運用の天国でした。

図表1
株価バリュエーションを押し上げ支えた資産購入

macro-investing-alpha-opportunity-ahead-fig1

出所:データストリーム、世界の中央銀行、ブルームバーグのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。時点:2008年1月1日~2021年12月31日。中央銀行が公表している月間の資産購入額を12カ月ローリングで合計し、累積購入額を算出、6カ月時系列データ。※上記は過去の実績であり、将来の市場環境等を示唆・保証するものではありません。

そして現在、世界は根本的に変化し、その過程で、あらゆる金融市場に衝撃が走りました。弾力的な供給の概念は課題を突きつけられています。需要の急激な変動が旧体制に、時に限界点に至るほどの圧力を加えました。結果として、インフレ率は世界的に何十年ぶりかの高い水準に上昇しました。上記の通り、この経済の動きが循環的または一過性のものであるとは考えられません。むしろ、特定の中央銀行が物価を現在の歴史的な水準から低い水準へと押し戻すことができたとしても、脱グローバル化、脱炭素化、人口動態の変化など、構造転換を促すメガトレンドによって、インフレは高止まりし、その変動は高まるでしょう(詳細については こちらをご覧ください)。インフレ率の上昇に直面し、中央銀行は金融政策運営の戦術を見直す必要があるようです。景気サイクルの局面(「ゴルディロックス(適温経済)や「景気の谷」)ごとに政策を転換するのではなく、サイクルのどの局面においても、受け身の姿勢を余儀なくされ、難しい政策運営に迫られるでしょう(図表2)。

図表2
レジーム移行で景気サイクルに変化の可能性

macro-investing-alpha-opportunity-ahead-fig2

出所:ブルームバーグ、リフィニティブのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。成長率とインフレ率の観点から世界経済サイクルの動きを示したもの。インフレ率を横軸に、成長率を縦軸に、四半期ごとのインフレ率と成長率を点で示し、連続する四半期の点を線で結ぶことでサイクルの流れを表示。※上記は過去の実績であり、将来の市場環境等を示唆・保証するものではありません。

ウエリントンのマクロ運用チームはこのレジーム(環境)の移行が経済や金融市場の動向に以下のような様々な影響を与えると予想しています。

  1. 経済と市場の変動は高止まりする可能性が高い。サイクルの方向性が不確実であるため、経済や市場の先行きと政策対応については、幅広いシナリオの想定を余儀なくされます。この状況は確率を考慮した投資の重要性を高めます。
  2. あらゆる資産のファンダメンタルズ要因(例えば、レバレッジ)が再び金融システムの「重力の法則」となる。すべての船が過剰な流動性によって浮き上がることはもはやなく、構造変化が企業と政府の運営コストを押し上げるでしょう。その結果は各組織の取引可能な資産の価格に直ちに反映されるため、勝者と敗者の区別を鮮明にするはずです。
  3. 株式市場と債券市場との相関がプラスになる場合がある。成長率とインフレ率が長期間異なる方向に動くことがあり、中央銀行はこの2つ指標のトレードオフを容認する必要に迫られるでしょう。中央銀行がインフレ率の安定を優先すれば、1960年代や70年代に起こったような、債券利回りが上昇すると同時に株式市場が低迷する時期が増えることになります(図表3)。言い換えれば、株式と債券との相関がプラスとなる期間が長くなるために、近年の状況とは大きく異なり、債券リターンが株式投資に対する信頼性の高いヘッジではなくなるということです。この環境では、伝統的な株式60%債券40%のポートフォリオは苦戦を強いられるでしょう。 
  4. 伝統的資産のリスク調整後リターンが低下する可能性がある。20世紀後半にみられたような、サイクルの変化がより定期的に、また、恐らくはより急激に起こる時代に移行しつつあります。私たちの実績分析によれば、この環境における株式リターンのシャープレシオは低下し、変動しやすくなります。
  5. 流動性の保持が多くの投資家にとっての最重要事項となる。ボラティリティの上昇は投資判断の複雑性と不安定さを高めることになります。従って、伝統的な資産配分のフレームワークに基づくポジションの有効性が短期化する可能性があり、機敏な判断と流動性の保持が重要になると考えます。

図表3
株式下落時に債券利回りが上昇する可能性

債券と株式同時安の時代

macro-investing-alpha-opportunity-ahead-fig3

出所:ブルームバーグのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。時点:1965年1月~1978年12月。
※上記は過去の実績であり、将来の市場環境等を示唆・保証するものではありません。

困難と共に投資機会も生まれる

上記のような環境に適しているのがマクロ運用戦略であると考えます。マクロ運用は、流動性のある資産クラスを全般的に見渡し、経済情勢と現状の市場価格とが交差するポイントで生じるロングとショートの両方の投資機会を捉えるように設計されています。マクロ戦略に分類される戦略の特徴は均一ではありません。つまり、各戦略は多くのサブスタイルやサブ戦略で構成され、それらのリターンは互いに低相関で、ダウンサイドリスクの軽減や流動性の面で異なります。経済トレンドに着目するマクロ運用戦略は不確実性と市場のボラティリティが高まる時期に、絶対ベースのみならず、他のオルタナティブ戦略との比較でも、良好なパフォーマンスを記録してきました(図表4)。直近で市場ボラティリティが高まった時期も例外ではありません。

もちろん、逆の見方をすることもできます。具体的に言えば、世界金融危機以降の10年間がそうであったように、マクロ運用戦略のリターンは、ボラティリティが低く、金融資産間の格差がほとんどない時期には、平均的な水準に留まることが過去の実績からわかります。

図表4
マクロ運用戦略指数はボラティリティが高い環境で高いパフォーマンスを記録

macro-investing-alpha-opportunity-ahead-fig4

出所:JPモルガン、HFR、ブルームバーグのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。時点:1995年12月~2022年6月。HFRIマクロ指数のHFRI総合指数に対する相対リターンはHFRIマクロ指数の1年ローリングのリターンからHFRIファンド加重総合指数の1年ローリングのリターンを控除して算出。※上記は過去の実績であり、将来の市場環境等を示唆・保証するものではありません。

新たな環境に対応するために、リターン創出、分散化、流動性保持などの要件を満たす戦略を求める動きの中で、過去半年から1年の間にマクロ運用戦略への関心が高まっています。「フリーサイズ」のマクロ運用戦略は存在しないため、運用会社選定の際には、最も重要視する投資目標(例えば、リターンの向上やダウンサイドリスク軽減など)を特定する必要があります。加えて、チーム構造(例えば、単一のポートフォリオ・マネジャーによるのか、マルチマネジャーによる運用なのか)、投資哲学とプロセス(「特長」は何か)、リソース、キャパシティ制限、その他の条件(例えば、手数料、費用および流動性)など、投資募集の要項を十分に理解することが必要となります。

フランス語で「復活」を意味するルネサンスの時代は歴史的に、世界の将来像に劇的な影響を与える経済的・社会的変化を見極められる人々に報いてきました。そのような時代への移行は投資にとっても重大な意味を持つと考えます。マクロ運用戦略であれば、世界の経済と金融市場にとって興味深く異彩を放つ時代が提供する機会を活かすことができると考えます。

perret-christopher-648x648

クリス・ペレ

インベストメント・ディレクター
bi-vivian

ヴィヴィアン・リー

インベストメント・スペシャリスト