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グローバル市場見通し:

金融引き締めサイクルの長期化、市場への影響

2023-04-17
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要旨

  • 経済成長率の減速を予想。主要中央銀行はいずれもインフレと成長率減速に対峙することになるものの、被る影響は地域ごとに異なるとみられます。金利上昇、流動性縮小、金融情勢の悪化は企業収益とマルチプル(株価倍率)の下振れリスクを示唆しているため、ディフェンシブ債券を選好する一方、グローバル株式を小幅アンダーウエイトします。
  • 株式:株式の中では、ファンダメンタルズの観点から、エネルギー価格の上昇と中国経済の減速の影響をより強く受けるであろう欧州や新興国株式よりも、米国および日本株式を選好します。米ドル高は新興国のインフレ圧力を高め、経常収支赤字を拡大させつつあります。
  • 債券:インフレと高まるリセッション・リスクの綱引き状態を考慮し、ディフェンシブ債券を小幅オーバーウエイトとします。バリュエーションと中央銀行のタカ派姿勢を踏まえ、米国金利に対するロングポジション、欧州金利に対するショートポジションを選好します。スプレッドは、特に割安な水準にあるわけではないため、リスク回避の動きに脆弱であると考えます。
  • コモディティ:小幅オーバーウエイトを維持していますが、選別投資の必要があると考えます。中国のゼロコロナ政策と不動産市場の問題を考慮し、産業用メタルよりもエネルギーを選好します。金については、米金利の上昇を受けて、売られやすい環境が続くとみています。 
  • 下振れリスク:米国もしくは欧州の深刻なリセッション入り、為替動向をきっかけとしたソブリン危機およびウクライナ情勢の深刻化が挙げられます。
  • 上振れリスク:米連邦準備理事会(FRB)が過不足なく金融引き締めを行った場合のソフトランディング・シナリオと中国の大規模な景気刺激策が挙げられます。

2022年7月と8月の株価の反発が遠い昔のことのように感じられます。インフレ指標の上昇、各国中央銀行による相次ぐ利上げ、新たな天然ガス供給ショック、中国景気の持続的低迷、企業業績見通しの下方修正などにより、市場の楽観は失われてしまいました。加えて、金融政策と財政政策の矛盾は、先鞭をつけた英国で生じた事態が示すように、市場を大きく変動・混乱させます。これらを考慮し、金融引き締め策に加えて、企業業績の悪化とマルチプル低下のリスクが今後数カ月間のリスク資産の重しになると予想しています。しかし、この環境下では、各資産のリスク・リターン特性が劇的に変化し、資産価格がファンダメンタルズではなく市場センチメントによって押し下げられる場面を注視します。リスク・エクスポージャーを引き上げるタイミングか否かを判断するために、市場は深刻なリセッションを織り込みつつあるか、米FRBに引き締めサイクルを中断させるほど十分に景気が減速しているか、または十分にインフレが抑制されているかを検討します。

インフレ率の上昇を受けた中央銀行の政策対応、景気への影響、市場の反応は一様ではないため、私たちの地域別の見通しは幾分か変化しました。グローバル株式については、小幅アンダーウエイトしていますが、国・地域別では、米国と日本を引き続き選好し、欧州株式に対しては以前よりも弱気の見方をしています。米国については、消費支出と家計の健全なバランスシートが下支えになるとみていますが、欧州では、エネルギー供給ショックによりリセッションが避けられない模様です。 

債券市場に目を転じれば、市場のセンチメントがスタグフレーションから景気減速に変化するとの前四半期の私たちの見通しは時期尚早であったものの、成長率は鈍化し、債券利回りの安定化につながるとの見方を維持しています。ここでも、米FRBがインフレ対策で欧州中央銀行(ECB)に先行しているため(図表1)、米国と欧州市場とでは異なると考えます。グローバル金利全般については中立とするものの、米国金利のロングポジション、欧州金利のショートポジションを選好します。

信用力重視の方針に基づき、グロース債券に対してアンダーウエイトを維持しています。スプレッドは、高まるリセッション・リスクに見合うほどの水準にはないと考えます。コモディティに対して小幅オーバーウエイトしていますが、足元の中国の不動産市場の不振と世界経済の減速を考慮し、金属よりもエネルギーを選好しています。

図表1
金融引き締めサイクルの長期化は米国金利に織り込み済み

FFレート先物(%)

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時点:2022年9月27日現在。期間:2022年9月23日~2024年1月31日。出所:ブルームバーグのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

株式:より強い逆風にさらされる欧州と新興国

地域別では、欧州と新興国よりも米国と日本を引き続き選好します。地政学的緊張とエネルギー危機が今後も欧州を圧迫するとみています。特に、ロシアからの天然ガス供給がほぼ完全に停止されれば、いくつかのシナリオの中でも、リセッション・シナリオの確率が最も高くなるでしょう。悲観的な見通しがバリュエーション、業績予想、物色対象に反映されている結果、欧州が先進国の中で最も割安ですが、リセッション・シナリオを織り込んだ場合は一段安の可能性があります。  

財政規律の緩みをいとわず、家計の支援とエネルギー価格の抑制を狙った欧州連合(EU)と英国の政策は効果が期待できる反面、より強力な金融引き締め策を必要とします。根強いインフレ圧力はECBとイングランド銀行(BOE)に、たとえリセッションに陥ったとしても、利上げの継続を強いることを意味します。英国では、拡張的な財政政策が双子の赤字を悪化させ、国際収支の危機に対する懸念を生じさせました。 

欧州のエネルギー供給不足は、少なくとも天然ガスの新たな供給源が十分に確保できる2025~2026年まで続くでしょう。従って、短中期的に、欧州のエネルギー価格は米国の数倍高止まりし(図表2)、それはエネルギー配給制のリスクのほか、相対的な生産能力や競争力を失うリスクを示します。これは、ユーロ安に反映され、金融情勢のタイト化を部分的に相殺し、現地通貨ベースでの欧州株式のアウトパフォーマンスの支援となってきましたが、最終的には、ファンダメンタルズの悪化に応じた調整の負担が通貨から株式に移行するかもしれません。

図表2
欧州へのエネルギー危機の影響はより深刻

米ドル/100万BTU(英サーマルユニット)

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「欧州(オランダ)天然ガス先物」はオランダTTF天然ガス先物価格(期近限月)、「米国天然ガス先物」はニューヨーク・マーカンタイル取引所の天然ガス先物価格(期近物)。
出所:ブルームバーグのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。期間:2020年1月2日~20222年8月30日。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

新興国、特に中国の政策は徐々に緩和へと転換していますが、企業収益への逆風や中国の規制を巡る不確実性と不動産危機が依然として厳しい見通しを示唆しています。一部のコモディティ輸出国を除き、新興国は物価の上昇と食料やエネルギーの供給不足の打撃を受けています。さらに、地政学的緊張とその結果としてのサプライチェーン再編のリスクも考えられます。

FRBのタカ派的姿勢と米ドル高は、リスク選好の動きを全般的に弱め、特に新興国への投資が回避されています。私たちが新興国株式の小幅アンダーウエイトを見直すとすれば、米ドルに反転の兆候(例えば、他の中央銀行が米FRB以上にタカ派色を強めるなど)や中国の政策がより大きく転換しつつある証拠が認められた場合です。

米国株式の選好は、欧州と新興国に加え、グローバル株式全般に関する懸念を踏まえた相対的な判断です。その相対的に高いバリュエーションと業績予想は、米国に対する見通しが他の地域と比べ楽観的であることを示しています。その楽観を正当化しているのが、好調な雇用情勢、底堅い企業ファンダメンタルズ、エネルギー自給率の高さです。インフレ期待は相対的に抑制され、物価上昇に鈍化の兆しがみられます。さらに、住宅価格が今後数カ月間でピークを打つことを示す初期兆候がみとめられます。世界経済がリセッションに陥れば、景気循環株はアンダーパフォームし、米国株式の相対パフォーマンスの支援ともなるでしょう。 

日本株式については、割安なバリュエーションと円安が追い風となる可能性があります。円安圧力が強力で、インフレの上振れリスクが相当程度あるにもかかわらず、日銀はイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)政策を堅持し、その代わりに、為替市場への直接介入で、円の防衛に乗り出しました。日銀がイールドカーブ・コントロールの方針を微調整するとしても、財政支出が拡大される可能性が高いことから、日本の政策ミックスは他国のそれよりも依然として支援的であると考えます。日本において、需要主導、特に賃金上昇と若年層の雇用増を通じた正しいインフレ環境が整えば、名目成長率が高まるでしょう。

セクター別では、需給面で強力な追い風が吹くエネルギー、そして、素材を選好します。資本規律の堅持、適正なバリュエーション、好調なキャッシュフロー、安定したクレジット・スプレッドなどにより、両セクターの企業ファンダメンタルズは良好です。また、コスト圧力とボラティリティが高まる中にあっても、相対的に値を保つ可能性を考慮し、セクターを問わず、価格決定力が高く、長期的な利益率が安定し、バランスシートが健全な企業を選好します。

コモディティ:世界経済減速下の需要減退

コモディティに対して小幅オーバーウエイトしています。ロールイールド(限月間の先物価格差)がプラスとなるバックワーデーションの状態を作り出してきた構造的な供給不足を考慮し、引き続きエネルギー・セクターに投資機会を見出しています。一方、産業用メタルに対する見方を中立に変更しました。世界経済の減速による需要減が供給ボトルネックの恩恵を上回り、同セクターには短期的な下押し圧力がかかるとみています。産業用メタルの見方を中立に変更しました。

金については、リスク・バランスがスタグフレーションから成長鈍化に傾くため、強弱相半ばする見通しを持ち、小幅アンダーウエイトしています。  

債券:利回り上昇を受けて以前よりも強気の見方

債券市場は、FRBのターミナルレート(利上げサイクルの最終到達金利)の予想を株式市場よりも先に織り込んだとみています(図表1)。FRBの予想の中央値は(個人消費支出物価指数を基準とする)インフレ率が3%で、FFレートは4.6%です。両数値が示唆するのは、実質金利が1.5%を超え、これは景気に抑制的に働く水準と考えられます(これはFRBの政策目標でもあります)。米国10年債利回りが4%近くに達し、FRBが成長率の犠牲を容認する姿勢を明確にしているため、米国債のバリュエーションは割安であると考えています。ただし、インフレ率を押し下げるために、ターミナルレートを引き上げる必要があるのか否かという問題を注視する必要があります。

欧州債券に対しては、以前よりも慎重な見方をしています。マクロチームは、欧州のインフレ率とECBの利上げがコンセンサス予想を上回る一方で、GDPは予想を下回り、米国と比較し、スタグフレーションの傾向が強い環境を予想しています。大規模かつ拡大傾向にある財政支出は、ECBがその抑制を狙っている時に、需要を押し上げる可能性があります。 

投資適格社債については、リセッションを想定する私たちの基本シナリオを踏まえると、スプレッドが十分に拡大しているわけではないため、小幅オーバーウエイトから小幅アンダーウエイトへと見通しを変更しました。グロース債券のスプレッドはリセッション時のデフォルト増加を補償するほど十分に拡大しているとは言えません。しかしながら、オールイン利回り(債券発行時の国債利回り、スプレッド、発行価格のディスカウント、手数料等をすべて勘案した利回り)が投資適格債券で約5.5%、ハイイールド債券で9%以上であることは、インカム志向の投資家や株式の代替を求める投資家にとって魅力的であるかもしれません。低いドル価格と魅力的なキャリーを踏まえ、短期クレジットに加え、相対的に高い信用力により損失を被る可能性が低い、発行から年月が経過したノンエージェンシー住宅ローン担保証券など、証券化商品にも選別的な投資機会を見出しています。

リスク

私たちの見通しの下振れリスクとして挙げられるのは、FRBがインフレ抑制に失敗するか、過度な引き締めを行った結果として、米国が深刻なリセッション陥ることです。欧州についても、深刻なリセッションに陥るリスクがあります。その要因として最も可能性が高いのがエネルギー危機の長期化とそれに関連した製造業の生産減少です。

その他の下振れリスクとしては、通貨の極端な変動(例えば、拡張的な財政政策や過度な金融緩和政策を採る地域の通貨に対する市場の制裁)や、ロシアによる核兵器使用のリスクが高まるなど、ウクライナ情勢のさらなる深刻化などが考えられます。 

上振れリスクとしては、FRBが過不足なく金融引き締めを行うソフトランディングシナリオと中国での大幅な景気刺激策が挙げられます。ミクロのレベルでは、企業が価格決定力を維持し、結果として、今後12カ月間の利益率と増益率が現在のコンセンサス予想を上回ることです。株式のアンダーウエイト(全体か地域別かを問わず)に対する上振れリスクとしては、特に欧州と新興国について、現在のバリュエーションに収益やその他のリスクが既に十分すぎるほど織り込まれている可能性があります。 

投資への影響

クオリティ重視 ― 主要中央銀行の同時引き締めにより世界経済が減速する可能性が高いでしょう。コスト圧力とボラティリティが上昇する中で値を保つ可能性を考慮し、価格決定力を保持し、長期的な利益率が安定し、バランスシートが健全な企業を重視します。エネルギーと素材セクターの企業ファンダメンタルズは、資本規律の堅持、適正なバリュエーション、好調なキャッシュフロー、安定的なクレジットスプレッドなどにより良好であるとみています。

地域間格差への備え ― 多くの中央銀行が同時に金融引き締め策を採っていますが、経済と市場に対する影響は一様ではないと予想します。例えば、欧州株式と債券は米国株式と債券に比べ下落圧力にさらされやすいとみています。既に英国において国債利回りが急上昇する事態が生じていますが、一国の財政と金融の政策とが食い違うケースが増えるとみられるため、通貨リスクも注視すべきでしょう。これは市場の混乱と同時に投資機会をも生み出す可能性があります。  

ボラティリティが上昇する中で、ディフェンシブ債券への選別的投資 ― 高格付け債券は利回りの観点から株式よりも魅力的であり、成長率減速が鮮明になれば、上値の可能性と分散化効果をもたらすとみています。

インフレ防衛策の追求 ― 需要減退はコモディティにとって逆風ですが、石油輸出国機構(OPEC)による減産があり得るため、継続的な需給不均衡が原油価格を押し上げる可能性があります。一部の実物資産と同様、物価連動米国債(TIPS)には引き続き投資妙味があると考えます。

クレジットに対して慎重な見方 ― リセッション・リスクが高まっていることを考慮すると、スプレッドが大幅に割安な水準にあるわけではありません。ただし、証券化商品、特に発行から年月を経たノンエージェンシー住宅ローン担保証券と短期クレジットについては投資妙味があるとみています。  

Nanette Abuhoff Jacobson

ナネット・アブホフ・
ジェイコブソン

グローバル・インベストメント兼
マルチアセット・ストラテジスト
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スプリヤ・メノン

マルチアセット・ストラテジー・ヘッド(EMEA)