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スチュワードシップ責任重視の視点で、ESGリーダー企業に投資

2023-08-31
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企業のスチュワードシップ責任の重要性は、資産運用業界全体で広く認識されるようになってきています。取締役会や経営陣によるエンゲージメント、長期にわたる最適な資本政策、ステークホルダーの利害を重視した経営は、企業の競争力を高め、長期的に投資収益を向上させていくことでしょう。そうした企業の責任投資と長期的な投資収益の向上の両立をめざす運用戦略に、アセットオーナーからの注目が集まっています。

スチュワードシップ責任は、投資期間が長いほど重要性が増します。長期の投資ホライズン(想定投資期間)と厳格な銘柄選定基準に基づくスチュワードシップ重視の運用戦略は、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関するリスクとビジネスチャンスを経営戦略に組み込み、利益成長につながる長期的な競争優位性を築いている企業に厳選投資します。そのため、ポートフォリオの売買回転率も低く抑えられています。

優れたスチュワードシップ責任とは

優れたスチュワードシップ責任とは、ステークホルダーのニーズ配慮と企業の利益向上の両立をめざすことだと、ウエリントンは考えます。それは企業の人材投資、環境配慮、将来の業績維持に向けたイノベーションへの投資を意味します。ESGに関する重要なリスクを特定・低減し、ESG課題を成長機会に転換するために設備投資を行い、企業の業績の安定と資本コストの削減を促すことは、長期的な投資収益の向上にもつながっていきます。

例えば、環境(E)に配慮する企業は再生可能エネルギーへの移行を優先し、環境負荷の低減に力を入れます。それらの取り組みは、持続可能な原材料の調達と、政府当局による規制強化のリスク抑制につながっていきます。従業員、顧客、サプライチェーン(供給網)、地域など、社会(S)に重点を置く企業は、従業員の離職率を抑え、顧客ロイヤルティーを向上させ、より持続可能なサプライチェーンを確保することができるでしょう。企業文化の多様性・公平性・包括性(DEI)を推進することにより、幅広い視野に立った挑戦が可能になります。また、強固な企業ガバナンス(G)は、最適な資本政策および長期的な視点に立った経営と、持続可能な資本利益率の確保を支えます。優れたスチュワードシップ責任を果たしている企業は取り巻く環境変化に適応し、成長に向けたイノベーション投資により、参入障壁を築き、競争力と価格決定力を強めています。

ステークホルダーの利益に資するよう努める企業は、1~2年といった短期間ではなく、持続的に魅力的な投資利益率を実現することが見込めるでしょう。それは、長期的な株価の上昇および資本コストの削減を促します。また、利益率が安定的に高い企業は、スチュワードシップ責任を一層重視します。この好循環、あるいは「フライホイール(はずみ車)」の効果が、長期的な企業業績とスチュワードシップ責任の持続と向上につながっていきます。

長期の視点に立ったスチュワードシップ重視の投資

長期的な視点に立ったスチュワードシップ重視の投資は、投資先候補あるいは組み入れ企業の綿密な調査に基づきます。また、取締役会や経営執行陣とのエンゲージメントを通じて、企業に革新性や持続可能性に沿ったビジネスモデルの構築や、四半期業績よりも長期的な収益性の追求を働きかけていくことも重要な役割を果します。積極的なエンゲージメントは、長い目で見たフライホイール効果を促し、持続的な向上に欠かせません。

ESG要素の定性評価にさらに重点を置くスチュワードシップ重視の投資は、市場の非効率性を活用することができます。ESG要素は指数化あるいは定量的に評価することが難しいため、ボトムアップのアクティブ運用が強みを発揮できる分野と言えるでしょう。 

スチュワードシップ重視のポートフォリオ構築

一般的にサステナブル投資の投資スタイルは、グロース株やテクノロジー株に偏る傾向にあります。一方、企業の長期的なスチュワードシップ責任を重視する運用戦略のリスク・リターン特性は、個別銘柄の要因に基づきます。その結果、セクター別の観点で、バランスのとれたポートフォリオ構築が可能になります。また、銘柄選択重視の分散されたポートフォリオは、国、セクター、ファクターのバイアスを抑制します。スチュワードシップ責任を果たしている企業を厳選することで、市場平均を上回る長期的な超過収益の獲得をめざすことができます。 

足元の成長よりも事業やステークホルダー、株主の利益を優先し、スチュワードシップ責任を果している企業は、比較的高いリターンが見込め、景気に左右されにくいセクターに見出すことができます。それらの優良企業は、より広範な市場全般と比べて株価の変動幅を低く抑えることができ、長期にわたり安定的に市場平均を上回る一貫したパフォーマンスが期待できるでしょう。 

スチュワードシップ責任の観点で、企業とのエンゲージメントを実施し課題を精査するには、ESG投資の豊富な実績、ファンダメンタル・リサーチの能力、セクターに関する深い専門知識が不可欠です。ESG要素は変化しているため、常に様々な課題に関して企業と対話し、長期的に経営を左右するような重要な課題について、経営陣に説明責任を求めていくことが重要です。投資先企業との長期の信頼関係は、経営陣や取締役会へのアクセス、経営戦略および企業活動の執行に関する大局的かつ掘り下げた対話を可能にします。 

ウエリントンのエンゲージメントの目的は、ベストプラクティスを共有し、投資先企業に変化を促すことです。そのため改善・進展が見込めない場合の選択肢として、ダイベストメント(投資撤退)も検討します。例えば、事業やリスクに適した気候変動対策を講じていない企業、あるいは責任ある持続可能な資本政策を示していない企業は売却の対象になります。 

企業のスチュワードシップ活動事例

世界的な大手テクノロジー企業
この会社の優れた収益力、中核事業のレジリエンス(耐性・回復力)、革新性、適応力については広く認知されていますが、地球環境問題への積極的な取り組みについてはあまり知られていません。同社は2030年までに温暖化ガス排出量を実質マイナスにする「カーボン・ネガティブ」を目標に掲げています。同社の取り組みは足元のカーボンフットプリントのみならず、約50年前に遡り創業当時からの排出量をすべて削減することをめざしており、他社と一線を画しています。この非常に高い目標を、同社は部材調達の意思決定や事業の運営などに組み込み、サプライチェーン全体のカーボンフットプリントを削減するよう、サプライヤーと密接に連携しています。

世界的な大手タイヤメーカー
この会社はサステナビリティ(持続可能性)への取り組みを経営戦略に組み込み、サプライチェーン全体で地球環境や社会に配慮した「責任ある調達」に取り組み、スチュワードシップ責任を果たしています。特に森林破壊、ゴムの原料調達、労働者の人権侵害などのリスク管理について、極めて慎重に取り組んでいます。例えば、同社は森林破壊と生物多様性のリスクについて、年間10万人以上の農家の人向けに研修を実施しています。また、地域社会の森林破壊に関するステークホルダーの情報を収集するためのアプリケーションも独自に開発しています。

耐久性が高いタイヤを製造するという同社の戦略は、タイヤ販売数の減少につながるかもしれません。ただし、耐久性強化は廃棄物削減を促すだけでなく、同社の価格決定力とブランド力を高めると見込まれます。その結果、地球環境に配慮しつつ、市場シェアを拡大していくことが期待できるでしょう。この企業利益とスチュワードシップ責任のウィンウィンの関係は、ESGにおける強力なリーダーシップと優れたスチュワードシップ責任が、いかに持続的な競争優位性を築くことができるかを示しています。

yolanda courtines

ヨランダ・コーティンス

株式ポートフォリオ・マネジャー