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【APACインベストメント・フォーラム】

エネルギー不安

2023-10-11
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【要旨】

2022年8月30日に開催したオンライン・パネルディスカッション「APACインベストメント・フォーラム」では、エネルギー不安をテーマに広範な地政学的・経済的背景との関係を考察しました。

コモディティ:短期的なリスクと良好な構造的背景との間のバランス

コモディティ・ポートフォリオ・マネジャー デビッド・チャン
現在、3つの動きがコモディティに対する短期的なリスクを生み出しています。1つ目は、コモディティの世界最大の消費国である中国の需要が減速していることです。その原因は新型コロナウイルス禍後の同国の経済回復が緩やかで、かつ工場が長期にわたり閉鎖されていることに伴う混乱、そして不動産市場の冷え込みです。2つ目は、欧州がロシア産ガスからの脱却を決め、製造業におけるコモディティのエンドユーザーが生産活動の縮小を余儀なくされていることです。3つ目は、米連邦準備理事会(FRB)の利上げで米国の経済活動が減速し、コモディティ需要が減退している状況が挙げられます。

これに対して、コモディティ・セクターの長期見通しは金属を筆頭に堅調に見えます。目下の低価格を背景とした供給過剰は認められず、在庫は過去50年ほどで最も低い水準です。このセクターの需要は減速していますが、供給過剰にはつながっていません。現在の生産者は株主への資本還元を目指して高成長を追求するのではなく、規律を重んじ、過剰消費や温暖化ガス排出量の低減をより強く意識しています。

長期的に見ると、世界経済の脱炭素の流れはコモディティ生産者にとってプラス材料です。風力タービンや新たな送電網、電気自動車など、エネルギー転換に用いられる技術の多くは金属に大きく依存しています。例えば、銅の需要は現在、年率2.5%のペースで伸びています。

さらに、新型コロナウイルス禍によるロックダウンや地政学的緊張を受けて、サプライチェーンがより地域に即した形に再編されたことも追い風です。多くの製造業企業は長年、効率性が低く生産コストの高い新規生産者から供給を受けてきました。こうしたサプライチェーンの再構築はコモディティの集約を促し、それらすべてが価格上昇につながると考えられます。

コモディティの年間利回りは現在10%を超えており、今年は投資の好機と言えるでしょう。目下の魅力的な利回りは、この資産クラスへのエクスポージャーに伴う潜在的な短期リスクを補って余りある水準にあるとみられます。ただし、投資対象を厳選することが重要です。

地球環境問題と社会問題のトレードオフ

ESGアナリスト ジェニファー・リン
エネルギー・セクターの脱炭素に向けた動きは、温暖化ガス排出量実質ゼロ(ネットゼロ)の取り組みを加速させています。特に電力会社に当てはまり、これらの多くは低炭素のエネルギー源の実用化に積極的に取り組んでいます。ガス価格が過去最高値を更新する中、電力会社は利用可能な料金体系の構築も迫られています。その結果、温暖化ガス排出量を削減する必要性と、顧客や消費者の負担配慮との間でトレードオフが生じています。

電力会社には、社会的配慮が従来よりもはるかに強く求められています。さらに、各国は電力市場を安定させるためエネルギー補助金を支払う形で介入しており、その原資として電力会社に超過利潤税を課す政府もあります。このような措置は電力セクターに不確実性をもたらすだけでなく、電力会社がさらなる政策変更の影響を受けやすくなることも意味しています。

政府は電力会社に対し、エネルギー転換計画をさらに進めるよう求める一方、短期的には家庭や企業、産業活動の「明かりを灯し続ける」ことも要求しなければなりません。ガス価格の高騰は電力会社に石炭への回帰も促しており、過去10年ほどの間に電力セクターが講じてきた積極的な気候変動対策が巻き戻される可能性があります。

再生可能エネルギーの利用が高まれば世界のガスへの依存度は低下し、地球環境問題と社会問題のトレードオフは将来的には改善されるでしょう。一方、液化天然ガス(LNG)の輸出拡大に向けた米国の取り組みは、価格上昇圧力を軽減するのにある程度役立つはずです。現在のESG(環境・社会・ガバナンス)のジレンマを解決するには、低コスト、低炭素、低紛争というエネルギーの3つの「低」を満たす必要があります。そのような解決策が見つかるまで、政府、企業、投資家は、関連する地球環境問題と社会問題のバランスを取らなければなりません。

低炭素経済への移行の加速と投資収益の向上の両立

株式ポートフォリオ・マネジャー兼グローバル産業アナリスト(公益事業/再生可能エネルギー) アラン・スー
再生可能エネルギーの供給は低炭素経済への移行に不可欠なだけでなく、各国が石油・天然ガスなどの化石燃料の輸入への依存を減らす機会でもあります。

目下のエネルギー転換を推進している新技術の多くは、国内での組み立てや展開が可能です。このような技術は、太陽光パネルからバイオ燃料、スマートグリッド・インフラに至るまで多岐にわたります。気候変動やエネルギー安全保障を巡る懸念が急速に高まる中、世界中の政府が企業に新技術の利用・開発を促すインセンティブを与えています。例えば米国では、最近成立した2022年インフレ抑制法により、電気自動車や水素製造など幅広いセクターの米国内企業が税額控除を受けられるようになりました。

脱化石燃料の動きは石油・ガス生産国への依存度を低下させますが、よりクリーンなエネルギー源の採用は新たな課題も生み出します。注目すべきは、これらの新技術を構築するのに必要な金属のかなりの量が、ロシアまたはウクライナで採掘されていることです。現在、銅、アルミニウム、プラチナ、パラジウムの在庫は、過去5年間の水準を大きく下回っています。これらの在庫が短・中期的にどのように推移するか注意深く見守っていく必要があります。

長期的には、将来の脱炭素化を推進する素材や技術への投資が奏功する可能性があります。これらの分野の需要はますます高まっているものの、脱炭素目標達成には程遠い状況です。最も優れた技術や製品ラインアップを製造し、競争力と健全なバランスシートを持ち、需給の不均衡を利用できる立場にあるにもかかわらず、市場で過小評価されている企業が将来的に良好なパフォーマンスを示すでしょう。

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デビッド・チャン

コモディティ・ポートフォリオ・マネジャー
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ジェニファー・リン

ESGアナリスト
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アラン・スー​

株式ポートフォリオ・マネジャー