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新興国株式市場へのテーマ投資で投資収益の獲得を目指す

2024-02-28
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私は最近、娘の13歳の誕生日パーティーで、ユニバーサル・スタジオ・シンガポールのバトルスター・ギャラクティカ・ローラーコースターに乗りました。それはとても怖い体験でした。時速90キロメートルの速度で12メートルの高さから落下し、5回も上下逆さまになりました。その状態が永遠に続くのではないかと思いました。新興国株式の近年のパフォーマンスの例えとして、これほどぴったりなものはありません。しかし、2022年に新興国株式に打撃を与えた逆風にも、ここ最近は緩和の兆しが見られます。そのため、新興国株式市場におけるテーマの投資機会の一部について、楽観的な見方を強めています。

2022年の逆風が追い風に転換すると考える理由 

新興国株式が抱える多くの課題は解消されてはいないものの、明るい話題の増加と割安なバリュエーションは、同市場へのテーマ投資に検討の余地があることを示しています。特に、以下の点に注目しています。

景気先行指標の改善:2022年の初めに20年ぶりの水準にまで縮小した新興国と先進国との経済成長率の格差は今や反転し、徐々に拡大しています。景気先行指数は現在、新興国の経済成長率の加速を示しています。その主な要因は中国経済の再開です。中国のゼロコロナ政策の緩和と的を絞った景気対策が同国を含む新興国経済の支援となっています。さらに、インドの経済成長率も回復しています。

インフレ圧力の低下:先進国とは異なり、新興国の中央銀行はインフレ率の上昇を「一過性」とは捉えず、利上げサイクルも先進国より12カ月以上早く始まりました。新興国全体としての総合インフレ率は先進国の約半分の水準です。実質金利がプラスで、インフレ率が鈍化または低下している新興国では、難問に直面する先進国と比べ、遥かに支援的な金融政策が期待できます。

先進国の業績修正により相対パフォーマンスに改善の可能性:新興国企業の業績の下方修正が先進国のそれを上回り始めたのは約1年半前のことです。未だ上方修正に転じるまでには至っていないものの、今や先進国企業の業績下方修正の方が相対ベースで加速しています。過去の例から、これは新興国株式の相対パフォーマンスが好転するサインといえるでしょう。

割安なバリュエーション:2022年の大幅下落により、現在の新興国株式のバリュエーションは、過去の水準との比較においても、先進国株式との比較においても割安に見えます。CAPEレシオ(景気循環調整後の株価収益率)で見ると、新興国株式は現在、先進国株式の半分の水準で取引されています。ただし、この全体的なバリュエーションでは、大きなばらつきを把握することはできません。最も注目すべきは、中国のバリュエーションが過去最低水準にある一方で、インドのそれは最も割高であることです。 

米ドル圧力の緩和:米ドルの動向は長きにわたり、新興国株式のセンチメントに影響を与えてきました。米ドル高はしばしば、新興国株式の相対パフォーマンスの悪化要因と見なされます。2022年に、貿易加重平均ドルは20年ぶりの高値をつけた後に、勢いを失っているように見えます。米国のインフレ率の鈍化、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ幅縮小、米国の経済成長率減速の見通しなど、これらすべてが米ドルの重荷となり、新興国が受ける圧力を緩和しています。

有望な投資テーマは? 

多くの観点で、2022年は移行の年であったと考えます。現在のマクロ環境は明らかに、世界金融危機のどの時期とも異なります。この新たな環境下で、以下の3つの分野の投資機会に注目しています。

ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)

過去30年間労働者へのリターンが継続的に低下しましたが、ここにきて、世界各国で、労働闘争が復活し始めています。直接的なきっかけはインフレ率の上昇でしたが、緊張は高まる傾向にあります。労働争議は世界的に増加し、政府は最終的に労働者の意向を政策に反映させる方向へと動いています。より包摂的な経済モデルへの移行には何年も要するでしょう。しかし、その過程では、労働者への富の再分配の拡大、累進課税の強化、福祉予算の増額、ベーシックサービス(子育て、教育、医療、介護など誰もが必要とするサービスの無償化)への投資拡大、特定の産業の規制強化を避けて通ることはできません。それらを実現する企業やその恩恵が期待できる企業に追い風が吹くでしょう。

恩恵が期待できる分野: 金融包摂(経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組み)、医療サービス、ソーシャル・エンパワーメント

ネットゼロ

ロシアのウクライナ侵攻は温暖化ガス排出を実質ゼロにする「ネットゼロ」を地政学的テーマに変えました。ネットゼロへの移行コストは、インフレ率・金利・設備投資コストの上昇により、過去12カ月間で増加しましたが、化石燃料への依存を減らすという国家安全保障上の緊急性も高まっています。2022年には、幾つかの重要な政策で進展がありました。特に、国連気候変動枠組条約第27回締結国会議(COP27)は、気候変動に最も脆弱で大きな影響を受ける国家に金融支援を提供する「損失と損害」基金を創設しました

恩恵が期待できる分野: 環境意識とエネルギー効率

経済ナショナリズム

米FRBの地政学リスク指数は2003年開始以降で最も高い水準にあり、中国の存在感が高まるにつれ、多極的世界への移行が急速に進行しています。冷戦後を特徴づけてきた構造要因の変化が予想されます。具体的には、世界的な統合から脱グローバル化へ、地政学的安定から大国間競争の時代へ、経済発展のみを重視する政策から広い意味での国家安全保障を志向する政策への転換などです。また、サプライチェーンの多様化、食料・水資源・エネルギー安全保障、バイオテクノロジー、人工知能(AI)、防衛のような戦略産業に注力する新たな「設備投資のスーパーサイクル」の入口にいるといえるでしょう。

恩恵が期待できる分野: スマートデータ、自動化・ロボティクス、デジタル・インフラストラクチャー

まとめ 

テーマ型の投資は、構造的トレンドに的を絞ることで、新興国株式の魅力的な投資機会を活用することができます。現在の不確実なマクロ環境において、ポートフォリオ構築の出発点として、予測が困難な景気サイクル変動との相関が高い個別企業や産業ではなく、前述のテーマに注目することで、効果的な運用が可能であると考えます。

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ダーラ・ダン

ポートフォリオ・マネジャー