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量的引き締めで生まれる、クレジット市場の投資機会

2023-10-05
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世界経済には現在様々なことが起こっていますが、今後6カ月から12カ月のクレジット市場の見通しを考える上で取り上げるべき動きの一つは恐らく主要中央銀行によるバランスシートの縮小でしょう(図表1)。

インフレが方向転換の引き金に

言うまでもなく、2020年の主要中銀による資産購入の急拡大は新型コロナ感染症の世界的流行を受けたものです。しかし、より長期で見れば、世界金融危機以降の資産購入額は20兆米ドル近くにも達しています。つまり、市場はずっと非常に甘やかされた状態にあったということです。主要中銀は2018~2019年に足並みをそろえて金融緩和縮小に乗り出しましたが、市場が動揺し始めると急旋回し資産購入を再拡大させました。当時と現在とでは何が異なり、主要中銀は今なぜ流動性縮小の開始を厭わないのでしょうか。一つ言えることは、昨年までは見られなかった成長率とインフレ率との間に明らかなトレードオフ関係が成立していることです。インフレ率は1980年代以来の高い水準に達し、中銀が無視できないコストを生み出しています。

図表1
主要中銀による資産購入
(月間購入額、億米ドル)

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出所:データストリーム、各国中央銀行などのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。時点:2022年7月。2022年8月~12月のデータは予測。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

私たちの調査によれば、この変化は構造的で、景気やインフレのサイクルの周期は、以前よりも短く、振幅が激しくなるとみられます。主要中銀は世界金融危機以降ボラティリティを抑制してきましたが、もはやその役割を果たすことができません。むしろ、今後はボラティリティを増幅させる可能性が高いでしょう。

投資への影響

これまでは、世界的な量的緩和と株式やクレジット・スプレッドなどのリスク資産の方向性とは明確に連動していました。従って、今年の残りの期間と来年は、投資家にとっては逆風が吹き始める可能性があります。主要中銀は量的引き締め策を慎重に進め、バランスシートが縮小し始めるのはまだ先であるとみています。事実、年初来数カ月間で1億米ドルの資産が購入されています(2021年は3.5兆米ドル、2020年は6兆米ドル)。しかし、年内には売り越しに転じると予想されます。

この環境は新たな投資機会を生み出すでしょう。歴史的に、中銀が完全な引き締めスタンスに転じた時は、潮が引いた時のように隠れていた様々なことが露わになります。ミスプライスが生じていたのはどの資産なのか、実は機能していなかったのはどのビジネスモデルなのか、ビジネスモデルの選択で誤ったのは誰かなど。この状況は市場のばらつきが大きくなることを意味します。事実、図表2に示されるように、その兆候が既に現れています。

図表2
クレジット市場のばらつきが拡大傾向
各セクターの平均利回りから標準偏差±1の範囲外で取引されている銘柄の割合

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出所:バンクオブアメリカのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。※上記はあくまで一例にすぎません。上記は過去の実績であり、将来の市場環境等を示唆・保証するものではありません。

クレジットの運用者として、銘柄選択を通じた非効率性活用の機会が生じると予想しています。そして、この環境を活かすには、トップダウンのクレジット市場分析とセクターや個別銘柄のボトムアップ分析が必要であると考えます。

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デリク・ハインズ

債券ポートフォリオ・マネジャー
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ライアン・バレンテ

債券ポートフォリオ・マネジャー