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日銀の新たなリーダー:ハト、タカ、それともフクロウか?

2024-03-31
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2023年4月に現職の黒田東彦総裁が退任するのに伴い、日本銀行の舵取り役として植田和男氏 が正式に指名されました。同時に、2名の副総裁候補、現職の日銀理事である内田真一氏 と、元金融庁長官である氷見野良三氏 が指名されました。

後述の通り、日本の中央銀行におけるこの「番人の交代」は、日本だけでなく、グローバルのアロケーターが留意すべき、投資に対するいくつかの重要なインプリケーションがあると考えます。 

サプライズ人事

「黒田続投」候補として、雨宮正佳氏が事前に多くの憶測を呼んでいたため、植田和男氏が日銀のトップに指名されたことは、多くの市場参加者にとって驚きでした。雨宮氏が次期総裁候補として報道で取り上げられた際は、短期的に日本円に対して大きな動きをもたらしましたが、日銀の9人の理事を操る新たな総裁、副総裁がもたらす長期的な影響は、より大きく、より広範囲に及ぶ可能性があります。特に日本がこれまで世界の債券市場にとって一種のアンカー(低金利の下支え役)であったことを考えると、その影響は大きいと予想されます。

重要なポイント 

新総裁、副総裁はバランス重視の印象を与え、植田氏は、欧州中央銀行でタカでもハトでもなく(知恵の象徴であり、データを重視する)「フクロウ」 として就任したクリスティーヌ・ラガルドのようなスタンスになる可能性があります。また、次のポイントも重要です。

  1. 岸田首相は今回の日銀人事を通じて、安倍・黒田時代からの脱却を図るのか 。新政権はおそらく、「どんな犠牲を払ってでもリフレさせる」ことに重きを置かず、データをより重視すると予想されます。
  2. 異次元金融緩和政策からの脱却はデータ次第だが、改善傾向にある 。国内のアナリストの多くは、最近の日本のインフレ率の急上昇を「一過性」と見ているため、日銀の出口は緩やかなものにとどまると予測しています。しかし、最近の日本の経済データは、賃金が上昇し、労働者が価格決定権を獲得し、インフレが予想よりも「粘り強い」ものになる可能性があることから、このシナリオを覆しているように見えます。

日本の賃金上昇とインフレ率の持続性は、2023年後半に向けて監視すべき重要な指標となるでしょう。データの改善の勢いが持続し、イールドカーブ・コントロールとマイナス金利政策の両方の撤廃の可能性を含む、さらなる日銀の政策調整の主な引き金になると考えます。

投資へのインプリケーション 

植田氏の日銀総裁就任が4月に迫る中、日本国債の利回りが今後さらに上昇する可能性は十分にあると思われます。その場合、日銀が世界の流動性の「最後の砦」として認識されていることから、世界のリスク資産に影響を与える可能性があるでしょう。

スイス国立銀行と日本銀行は長年にわたりマイナス金利政策を堅持してきましたが、スイス国立銀行が2022年半ばにマイナス金利政策を廃止して以来、スイスフランは逆に先進市場の幅広い通貨バスケットに対して上昇しました。同様に、スイスと日本が世界最大の純債権国であることを考えれば、日本銀行がマイナス金利政策を政策手段から外す可能性は、中期的に日本の通貨に対する市場心理を好転させるかもしれません。

昨年から始まった世界の流動性供給の引き締めは、投資環境の地殻変動を意味すると考えています。しかし、これまでのところ、日本銀行は、他の主要な中央銀行の政策引き締めの流れに逆行し、長期債の利回り上限を死守するため、日本国債の購入を積極的に拡大せざるを得ない状況にあります(図表)。日銀の資産購入は、短期的には世界の金利とリスク資産に大きな影響を与え続けていますが、弊社マクロストラテジストは日銀のイールドカーブ・コントロール政策を恒常的に継続することは不可能であると考えています。今後、日銀の政策が変更された場合、世界の金利や通貨のボラティリティが高まる可能性が高く、特に、本邦投資家の外債投資や海外投資家の日本資産へ投資など、世界の資金フローに影響を与えるでしょう。

図表  

日銀の資産購入額は、FRB/ECBの引き締めによる資産売却額を上回る

出所:データストリームのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。時点:2023年1月。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

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駱 正彦(ろう まさひこ)

インベストメント・ディレクター
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長丸 伸太朗

インベストメント・スペシャリスト