biotechs new frontier

アナリスト・インタビュー

バイオテックの新フロンティア

2023-10-18
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バイオテクノロジー・セクターやそのイノベーションの短期的・長期的な成長機会とは 

私たちのチームは20年以上前からバイオテクノロジー・セクターの動向をフォローしていますが、足元のイノベーションはこれまでになく加速しています。短期的にはすでに販売されている、あるいは承認申請が視野に入り、まもなく患者の手元に届くであろう治療薬の開発を手がける製薬企業に注目しています。例えば、がんの治療技術であるADC(抗体薬物複合体)。ADCは体への負担が大きい抗がん剤を、がん細胞に絞って運ぶスマートな治療法です。ADC技術の強みは、抗体を用いることで体内の正常な細胞を回避しながら、がん細胞だけ攻撃できる点です。その結果、副作用の抑制とがんの治療効果の向上の両方が期待できます。

もう一つの例として、嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)の治療、または治癒を目的とした一連の治療薬を提供する製薬企業が挙げられます。遺伝性疾患の一種である嚢胞性線維症は特定タンパク質の変異が原因と考えられ、成人や小児が発症すると呼吸不全を招き、患者の命にも影響します。この製薬企業では、タンパク質を正常化する複数の低分子化合物治療薬を開発しています。その結果、患者の呼吸状態や生存確率が改善しています。

長期的の視点では、様々な新しい科学技術が登場しています。中には少し前までSF(サイエンスフィクション)の世界にしか存在していなかったようなものも含まれます。

その代表例がゲノム編集です。分子のハサミを駆使した技術と言えるかもしれません。この分子のハサミを患者の体内に運び、DNAのコピーミスや重複リスクのある箇所、あるいは遺伝物質の一部を切り取ります。

最先端のゲノム編集は2012年の発表からまだ日も浅いCRISPR(クリスパー)と呼ばれる技術です。しかし、CRISPRをベースにした技術が早くも2023年には遺伝子疾患治療法としてFDA(米食品医薬品局)の承認を取得し、実用化される可能性があります。

バイオテクノロジーの技術革新や新薬のパイプラインの中で、今後数年間で治療が見込める疾患や最も期待できる治療薬とは。また、近く提供できそうな新治療薬は

もう一つ興味深いイノベーション分野がTPD(標的タンパク分解誘導剤)です。TPDは、人体に本来備わっている不要な物質に対する処理機能を利用し、病気の原因となる特定タンパク質のみ取り除く方法です。現在、がん、炎症性疾患、あるいは神経系疾患の治療を目的に、人体に有害な特定タンパク質に標的を絞り分解する、経口投与もできる低分子化合物の開発を進めているバイオテクノロジー企業が複数あります。従来の技術では到達できず、創薬が不可能とされてきた治療の実現への道を切り開く新しいフロンティアと言えるでしょう。

創薬研究・開発におけるAI(人工知能)技術の活用も、多くの関心と投資が集まる萌芽期の領域です。バイオテクノロジー・セクターのアナリストの私たちも、ソフトウエアやインターネットの企業を担当するテクノロジー・セクターのアナリストと協働する機会が増えています。テクノロジー企業がバイオテクノロジー企業を支えるツールを開発しています。タンパク質の構造やDNAの配列を解析するツールもその一つで、開発を手がけるテクノロジー企業は、今や創薬分野の枠組みに直接組み込まれています。

足元の投資環境におけるヘルスケア・セクターのディフェンシブ性についてはどう見ているのか

ヘルスケア・セクターは幅広い投資家層に投資機会を提供しています。その中でもバイオテクノロジー・セクターへの投資は、どちらかと言えば「オフェンス(攻め)」の傾向にあります。対して、大手製薬企業やマネージドケア事業を手がける企業などの分野は、インフレ率や金利の上昇、経済成長の鈍化の投資環境下において「ディフェンス(守り)」の役割を果たすと考えます。

ウエリントンのヘルスケア運用チームやリサーチの強みは

ウエリントンの強みは、徹底したファンダメンタルズ調査と長年在籍する運用者の豊富な経験です。私たちのチームは、ヘルスケア・セクターの運用で計35年という長い実績を誇ります。

私はヘルスケア・セクターの今後の成長に大きな期待を持っています。高齢化に加え、治療薬や医療機器の開発、ヘルスケアサービスにおけるイノベーションの加速など好材料が揃っています。また、中国やインドなどの新興国市場からも目が離せません。ヘルスケア・セクターは、私たちのチームのような長年の経験に裏打ちされた運用者がアルファを創出し、お客様の長期運用の目標を実現する投資機会が数多く存在する分野だと確信しています。

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ウェン・シー

グローバル産業アナリスト