2026年世界経済見通し

2026年の投資:インフレを伴う成長に備える

2027-01-15
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主なポイント

  • 市場は現在、「ゴルディロックス(適温経済)」シナリオを想定していますが、これは2026年に起こる可能性が最も低いシナリオであると我々は考えています。
  • 労働統計に安定化の兆候が明確に現れるまで、市場はこの穏やかなゴルディロックス・シナリオを維持すると考えられます。
  • 最終的には、世界的なマイナス実質金利、融資基準の緩和、そして根強いインフレの中での緩和政策を考慮し、2026年に起きる可能性が最も高いのは、「インフレを伴う成長」と考えています。
  • 広い視野で見ると、2026年には多くの投資機会が見られると考えます。ただし、景気後退やスタグフレーションのリスクが一定程度あるなど、投資家はこれまでとは大きく異なるシナリオに適応できるよう備える必要があります。

背景:より頻繁で不安定なサイクルの復活

マクロ的観点からみて、資産価格にとって重要なのは、第1に経済活動とインフレの相互作用、第2にそれに関連する政策対応です。これは、理論的にはシンプルに聞こえ、実際、グローバル化が低インフレ・低金利環境に伴う長期的な成長サイクルを形成してきたことが示す通り、現実でもシンプルなものでした。しかし、今日の新しい経済的な枠組みでは、以下の理由により、この相互作用がより複雑になっています。

  • 根強いインフレ:インフレ率は多くの国で中央銀行のインフレ目標を大幅に上回っています。
  • 相反する経済ショックによって揺らぐ世界経済:例えば、緩和的な金融・財政政策に対する関税、AIがもたらす供給増加に対する保護主義や人口変動による供給減少などです。
  • ますます政治色を強める政策対応:富の格差拡大とポピュリズムを背景に、中央銀行と各国政府は金融引き締めを遅らせ、景気刺激策を早めています。

現在は、成長が将来のインフレを引き起こす従来型のサイクルに回帰し、経済は図表1に示す4つの区分の間を急速に移動する可能性があります。現在進行しているこの景気循環的環境への移行は、景気サイクルの各段階において異なる資産・投資戦略がそれぞれ異なるパフォーマンスとなるため、投資家にとって大きな意味を持ちます。さらに、2025年全体を通してすでに見られたように、市場は様々な結果に対する確率を頻繁に修正する可能性があります。

こうした背景の下で、2026年の見通しは以下の4つのシナリオをめぐって展開すると考えています。

  1. ゴルディロックス-短期的には、市場はインフレなき成長を想定し続ける公算が大きいと考えられます。
  2. インフレを伴う成長-投資家はインフレを伴う好景気の可能性を過小評価していると見ています。これが2026年に最も起こり得る結果であると考えます。
  3. 景気後退-景気後退の可能性はより低いと見ていますが、完全に排除することはできません。AIに対する失望や、足元の不確実性に対応した民間部門の貯蓄増加などが引き金となる可能性があります。
  4. スタグフレーション-テールリスクとして、スタグフレーションの兆候が来年現れ、不適切な政策対応によってさらに悪化するおそれもあります。

以下では、各シナリオを検討し、経済がどの区分にあり、どういった市場の反応が予想されるのかを投資家が判断できるよう、各シナリオの特徴を概説します。

図表1

2026年に想定される4つのシナリオ

1.市場が織り込んでいるゴルディロックス・シナリオの継続(当面)
様々な資産クラスを見渡すと、世界市場は依然として、2018年以前の世界経済の特徴だったインフレなき成長シナリオが継続すると想定しているようにみえます。以下がその表れです。

  • AI関連銘柄を中心に高水準の株式バリュエーションと力強いEPS(1株当たり利益)成長見通し
  • タイトなクレジットスプレッド
  • 長期債の価格は、中央銀行の中立金利もしくは中立金利をやや下回る水準への追加利下げを織り込んでいるものの、低いインフレ期待(ブレークイーブン・レート)を反映

このシナリオは、AIの成功に大きく依存しています。AIによる生産性の向上が関税や保護主義の高まりによる悪影響を上回れば、需要がインフレを加速させることなく堅調に推移する可能性があります。

これは資産価格にどのような影響を与えるでしょうか。
このような環境下では、株式は上昇を続け、クレジットスプレッドは引き続きタイトで、国債利回りは趨勢的な経済成長率の改善を反映して小幅に上昇すると思われます。確かに、AIによる離職によって失業率が一時的に上昇する可能性はありますが、生産性の向上でインフレが抑制されているため、政策当局は緩和的政策で対応することができます。

労働市場が軟化し、インフレ率が低下する(ただし依然として高水準)とみられることから、このシナリオは短期的には継続すると考えられます。しかし、我々の分析では、当シナリオが2026年最も可能性が高いシナリオではないことが示唆されています。

2.インフレを伴うより高い成長―最も可能性が高いシナリオ
なぜ最も可能性が高いと見ているか。世界の名目成長率が引き続き堅調である一方、大半の先進国ではインフレ率が引き続き目標の2%を上回っています。それでも、政策当局者は以下で示す通り、緩和的な姿勢を堅持しています。

  • 世界の流動性は過去最高水準に近く、これが投入されれば名目成長率をさらに押し上げる可能性があります。
  • 多くの国で民間部門の信用状況がすでに緩和されていますが、政府は、銀行に対する規制緩和を含め、融資促進策を打ち出しています。
  • 世界の実質金利はゼロで、今後再びマイナスになる見通しです。
  • 財政拡張が今後見込まれています。先進国は2010年以降で(コロナ禍の期間を除き)最も急速な財政緩和に乗り出そうとしています。

このような刺激策は、世界経済がインフレを伴う複数の供給ショックに見舞われている中で実施されています。

  • 米国の関税適用やその他の国々で高まりつつある保護主義的対応は、深刻な世界的供給ショックが起きることを意味します。グローバル化によって資本が最も低コストの生産者に流れ、世界の物価が低下したのと同様に、保護主義や、供給の安全保障に対する関心の高まりは物価を上昇させます。
  • 中国が、多くのセクターで生産能力を引き続き増強せず、逆に削減する取り組みを強化していることも、根強いインフレの大きな原因となり得ます。

AI主導の生産性向上が実現しなければ、供給が減少する中で政策が需要を促進するため、インフレを伴う好景気が2026年に起きる条件が整います。このテーマはまだ主流でないかもしれませんが、インフレを押し下げるのに十分な需給の緩みがないことが明らかになる中で労働市場の安定化の兆候が見られれば、市場が転換する可能性があります。

これは資産価格にどのような影響を与えるでしょうか。
どのような政策がとられるかが鍵になります。インフレを伴う好景気でもリスク資産に恩恵をもたらすことができ、力強い名目成長が株価を押し上げ、クレジットスプレッドの拡大を抑制するはずです。先進国の利回りが構造的に上昇する可能性も高まります。政策当局が成長を優先する政策を中止し、引き締め政策を通じたインフレ抑制に着手するまで、または、債券市場が「不適切な」政策対応を罰してターム・プレミアムの引き上げを通じた引き締めを強制するまで、リスク資産の上昇が続く可能性があります。債券投資家は少なくとも、労働市場回復の明確な兆候など、景気サイクルの現段階で緩和政策が不適切であることを示すデータが現れるのを待つ必要があり、それにはまだしばらく時間がかかりそうです。短期的には、世界の、特に米国の労働市場は軟化するリスクの方が高いと我々はみています。しかし、(労働市場の)安定化の兆候が現れるまでに時間がかかればかかるほど、政策当局が好景気とその後の不況の条件を生み出すリスクは高くなります。

3.景気後退リスク(起きる確率はより低い)
2026年に景気後退が起きるリスクを完全に無視することはできません。様々な形のきっかけが考えられますが、リスク資産により大きなマイナス影響を及ぼすものもあります。例えば、関税や既に広がりつつあるインフレの影響は、経済モデルが示唆するよりも深刻になる可能性があります。もっとも、緩和政策がとられていることや、民間セクターの借り入れが低水準であることを考慮すれば、このシナリオは一時的な景気減速に近いものとなるでしょう。

我々は、より大きな景気後退リスクは以下に起因するとみています。

  1. AIについて時期または将来的な利益の点で市場が弱気になれば、急激な株価調整が生じ、家計の富の認識が低下する可能性があります。
  2. すでに欧州の大半の地域で見られるように、現在のような不確実性の継続と財政規律の欠如は民間部門の貯蓄の増加を促します。このよう状況が継続した場合、1990年代の日本で見られたような大きなデフレ圧力が掛かります。

これは資産価格にどのような影響を与えるでしょうか。
2026年にインフレを伴わない景気後退に陥るリスクは、高まりつつあるとはいえ、まだ比較的低いとみています。実際に起きれば、株式は売られ、債券は(少なくとも当初は)上昇し、クレジットスプレッドは大幅に拡大するでしょう。景気後退がAI主導の調整によって引き起こされる場合、大幅なドル安も起きる可能性があるでしょう。

4.スタグフレーション:監視すべきテールリスクの一つ
現時点ではテールリスクにとどまっていますが、英国など一部の国ではスタグフレーションの兆候が見られ、保護主義の高まりによってさらに悪化する可能性があります。雇用が悪化する中でもインフレ率が上昇すれば、より明らかな兆候となるでしょう。以下の理由で当リスクは重要とみています。

  1. リスク資産市場にとっては非常に大きなマイナスとなります。
  2. 1970年代初頭のように、政策当局がインフレに対抗せず、受け入れるという過ちを再び犯す可能性があります。

これは資産価格にどのような影響を与えるでしょうか。
スタグフレーションは、特に長期化した場合、株式とクレジットスプレッドに最も大きな悪影響が及びますが、ブレークイーブン・インフレ率やターム・プレミアムによって債券利回りが上昇することをも意味します。

結論

図表2に要約されているように、2026年の最も可能性の高いシナリオはインフレを伴う景気拡大であると考えています。市場は当面、ゴルディロックスのシナリオを維持し、その後、高い名目成長率という新たな現実に適応することになるでしょう。可能性は大幅に低いものの、景気後退や、さらにはスタグフレーションのリスクを排除することはできません。

図表2

各シナリオが資産価格とポートフォリオに与える影響は大きく異なります。最も起きる可能性が高い「インフレを伴う成長」は、一般的にリスク資産の支えとなる傾向がありますが、ある時点で政策当局者が引き締めを開始するか、それができない場合、市場がより高いリスク・プレミアムを要求する可能性があります。

現在の急速に変化する環境下では、投資家は警戒感を持つ必要があります。景気サイクルの変化の明確な兆候を探り、高まった下振れリスクを軽減しつつ、2026年に見られる可能性が高い重要な投資機会を最大限利用できるように資産配分を積極的に調整することが望ましいでしょう。

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ジョン・バトラー

マクロ・ストラテジスト
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オーエン・オキャラハン

欧州マクロ・ストラテジスト