2023年市場展望

株式市場:ヘルスケア・セクターの見通し

2023-11-30
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healthcare 2023 outlook

下記コメントは2022年11月(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。

世界の株式市場にとって2022年は、厳しい年となりました。インフレ圧力の持続、金利上昇、地政学リスクなど、不透明なマクロ経済の中で、投資家は難しい舵取りを迫られました。そうした投資環境下、ヘルスケア・セクターは全般的にアウトパフォームしました。世界経済の懸念材料の大手製薬企業やマネージドケア事業者への影響は、他のセクターに比べて小さかったといえるでしょう。ヘルスケア・セクターは2023年も引き続き、重要なイノベーション、緩やかな政治・規制環境、株価バリュエーションに下支えされ、魅力的な投資機会を創出していくと見込まれます。

バイオ医薬品

疾患の生物学的要因の理解が深まり、生化学的手法を用いて疾患をひきおこす仕組みの解明が進んだことで、さらにイノベーションが加速するとみられます。2022年には、アルツハイマー病で大きな進展がありました。プラークを除去する抗体が、この深刻な疾患による認知機能低下の進行を遅らせる可能性があることが見つかりました。また、代謝性疾患でも大きな展開がありました。肥満治療は新しいかつ重要な分野です。減量効果に影響を与える治療は数十億米ドル規模のビジネスチャンスを創出すると見込まれます。

これらの分野に加えて、標的タンパク分解誘導剤(TPD)での進展も期待されます。TPDは、人体に本来備わっている不要な物質に対する処理機能を利用し、病気の原因となる特定タンパク質のみ取り除く方法です。すでに数種類のがん治療で臨床的有用性が実証されています。さらに私たちは、抗炎症や精神疾患に特化した治療薬や、メッセンジャーRNA、RNA干渉(RNAi)、遺伝子治療などの創薬を手掛ける企業にも注目しています。

2023年はファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)もバイオ医薬品のサブセクターを下支えしていくでしょう。米国の薬価制度改革がヘルスケア・セクターにもたらす長期的な影響はまだ明らかではありませんが、私たちはこの法案により業界の長年の不安材料が払拭され、投資家の懸念が緩和されたことは好材料と捉えています。大手製薬企業の好調な業績や、他のセクターに比べて景気循環に左右されにくいビジネスモデルを考慮すると、バイオ医薬品業界は今後景気が後退しても十分に乗り切れるでしょう。また、バイオテクノロジー株式は、下落局面を脱し歴史的に見て魅力的なバリュエーション水準にあるとみられます。注目すべきは、2023年は重要な臨床試験結果が数多く発表されると予想されることです。これにより、過去2年間にわたり市場を動かしてきた経済イベントやファクター・ローテーションに代わり、株価がファンダメンタルズを反映する環境が整うと考えます。

メドテック

過去数年間の新型コロナウイルス禍で、ヘルスケア市場の中でもメドテック(メディカル・テクノロジー)業界では、恩恵を受けた企業と事業に重大な混乱をきたした企業の二極化が鮮明となりました。2023年を展望すると、新型コロナウイルス禍がエンデミック(感染の地域的な流行)の段階にある中、同業界ではパイプラインの差別化がより重要になっていくでしょう。新型コロナウイルス禍の初期よりも力強さを増して混乱を乗り越えた企業は、幅広い基盤と製品パイプラインに再投資可能な潤沢な手元資金を有しており、魅力的な投資機会を創出しています。私たちは、パンデミックの影響による企業への一時的な打撃が構造的な問題と見なされ、市場で過小評価されている銘柄にも注目しています。潜在的買収者のバランスシートの健全化と、買収対象となり得る中小企業の株価がより魅力的なバリュエーション水準にあることから、ライフサイエンス(生命科学)分野や医療機器分野において、M&A(合併・買収)が活発化しています。2023年にはより多くの企業・事業統合が予想されます。

2022年、メドテック業界はコストプッシュ型インフレ、サプライチェーン(供給網)の混乱による供給不足、為替の影響など、マクロ経済の様々な圧力が業績の重荷となりました。ただし、半導体チップの調達、インフレへの対処、今後数年にわたる段階的な価格転嫁などを中心に、企業はこの環境を乗り切るべく活動を強化していくと予想されます。医療処置、診断、救命治療法の開発などに必要なテクノロジーの需要は底堅く、GDP成長の動向の影響を受けにくい傾向にあります。メドテックにおける有機的成長のトレンドは、より広範な株式市場と比較して強い回復力を示しています。

私たちはメドテック業界に対して明るい見通しを維持しています。イノベーションはかつてないほど勢いを増しています。2020年代は2010年代と比較して、多くの医療機器分野で成長が加速すると予想されます。具体的には、新しい糖尿病治療機器、 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)、僧帽弁閉鎖不全症の治療、ロボット手術、バイオプロダクション消耗品、遺伝子情報解析(シーケンシング)・検査などの分野での進展が予想されます。今後数年間で多くのメドテック企業が事業地域の拡大、新技術の導入、新たな患者集団を治療するための既存技術の利用による市場シェア拡大などが見込まれます。

ヘルスケアサービス

世界的に株式市場が厳しい局面にあった中、民間の医療保険会社と医療機関をつなぐマネージドケア企業の株価は2022年に強固なファンダメンタルズ、予想を下回るコスト動向、ディフェンシブな事業特性などを背景に、堅調なパフォーマンスを示しました。2023年は、米国の医療保険市場の中でも特にメディケア(高齢者向け公的医療保険)の安定、金利上昇の追い風などを受け、ヘルスケアサービス業界のビジネスモデルの強みがさらに発揮されるでしょう。ヘルスケアサービス企業は当初、新型コロナウイルス禍後の需要の回復が段階的になると懸念されていました。私たちは、ヘルスケアサービス企業の利用率が直線的に増加していくと見ています。同時に、新型コロナウイルス禍ではマスク着用や行動制限により発生数が減少傾向にあったインフルエンザが復活し、企業のコスト増につながるリスクを注視しています。

向こう1年間はヘルスケアサービス業界にとって緩やかな政治状況が続くとみられます。人工妊娠中絶の権利、医療費、処方薬の価格などは、米国の有権者にとって依然として重要な課題です。一方、11月の米中間選挙の結果は、政治家が医療保険制度改革法(ACA、通称オバマケア)の抜本的な廃止・代替よりも、医療インフラの整備に重点を置いていることを浮き彫りにしました。さらに、民主党が上院で過半数を維持し、共和党が下院で過半数を獲得したことにより政治の膠着状態が進み、結果的に政策は現状維持されることが予想されます。

私たちは、ヘルスケアサービス企業が医療費高騰という社会問題の解決に向けて役割を果たすことができると、考えます。また、一部の企業は、ヘルスケアサービスの出来高払いから医療の質に基づく支払い方式への移行に伴う恩恵を享受できるでしょう。ヘルスケア分野の進化には今後も期待ができます。人頭払い診療報酬を採用する医師グループ、ヘルスケアテクノロジー企業、在宅医療プラットフォームなど、患者により良い治療ケアを低コストで提供する企業は、魅力的な投資機会を見出しています。

まとめ

2023年を展望し、私たちはヘルスケア・セクターには引き続き魅力的な投資機会が広く存在していると考えます。同セクターにおける画期的なイノベーション、株価バリュエーションの下支え、景気サイクルを通じて底堅いビジネスモデルは、長期的な投資収益につながっていく考えます。

Rebecca Sykes

レベッカ・サイクス

グローバル産業アナリスト
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ウェン・シー

グローバル産業アナリスト
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ファイアズ・ムジタバ

グローバル産業アナリスト
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デビッド・クティキアン

グローバル産業アナリスト