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ウクライナ危機を俯瞰する

2022-12-31
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北大西洋条約機構(NATO)加盟をめざすウクライナはロシアと対立を深め、軍事圧力を強めるロシアに欧米諸国が反発しています。これは大国間競争にみられる地政学的パターンの一部であると考えます。「2022年市場展望」で解説したとおり、今年は過去数十年で最も複雑で予測不可能な危険をはらんだ地政学的状況が予想されます。この流れは米中の対立が主な発端ですが、他にも米国の政治の二極化や長期の観点では気候変動が国家安全保障に与える影響など、構造要因も関係しています。この新たな地政学的環境の中で、大国は特に国家安全保障上の地政学的な課題に関して、世界および地域の中で自己利益のために行動する傾向が強くなるでしょう。ウクライナはロシアの安全保障の確保および西側との緩衝地帯の強化に関わる重要な要衝です。ロシアのウクライナ再侵攻は現実味を帯びており、浮上する新たな国際秩序に起因した構造的な問題と言えます。

長期的な投資への影響

私は、足元の危機が台湾、南シナ海、東シナ海、北朝鮮、イランなど一連の領土問題や軍事危機の序章に過ぎないと考えます。投資においては、これらの危機の影響や地政学的な競争激化による政策の変化に備える必要があります。不確実性の高い新常態(ニューノーマル)では世界的に防衛費が増額される傾向にあり、軍事戦略の指針である「軍事ドクトリン」の戦略部門が引き続き政策の焦点になっていくとみられます。また、政府や企業のサイバーリスク対策や、気候変動の国家安全保障への影響がより重視されるでしょう。

今後起こり得る問題

現在のウクライナ危機は、世界中で地政学的に予測不可能な状況が高まっていることを示しています。ウクライナを巡る情勢は極めて流動的であり、西側諸国はロシアの意図を探るのに苦慮し、今後数週間は予断を許さない状況が続くとみられます。依然としてあらゆる結末の可能性が考えられ、様々な当事者が見誤る危険性があります。従って、ロシアが限定的な軍事作戦で物理的な侵攻に踏み切るリスクは排除できないでしょう。ただし、本格的な軍事侵攻はプーチン政権の大きな負担になるため、その可能性はより限定的であるとみられます。一方、より広い地政学的な不安が積極的な軍事活動を誘発する可能性があります。前向きな見方としては、ウクライナ情勢を巡り協議が続いている状況は、何らかの形で段階的な緊張緩和や互恵関係の道が残されていることを示しています。

ウクライナ情勢を俯瞰すると、現段階では危機が深刻化すれば、プーチン大統領は米国と直接交渉することができ、欧州では分裂が続き、エネルギー価格が上昇し、モスクワは欧州へのエネルギー供給の中心であり続けることができるため、ロシアの地政学的な影響力にとって有利に働くと考えられます。長期的にどのような結末になるのか現時点で見通すことは困難ですが、最終的にはロシアの行動の規模や西側諸国の反応が鍵になります。西側の反応はより複雑で、米国と欧州は分裂を修復し、経済に大きなダメージを与えることなく実行力のある制裁を見出す必要があります。例えば、ロシアを国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除する、あるいはロシア中央銀行への制裁措置などは、エネルギー価格の上昇やインフレ圧力など様々な影響を及ぼしかねません。

その他の投資への影響としては、下記を注視する必要があると考えます。

  • 米国と欧州によるロシアの軍事行動への制裁措置の結束力と内容の度合
  • 米国主導の制裁に対するロシアのサイバー攻撃
  • ロシアの侵攻に対する中国の反応
  • 米国の地政学的な信用力(特にアフガニスタンからの無秩序な撤収を考慮した場合)
  • 米国内の政策および中間選挙への影響
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トーマス・ムーチャ

地政学ストラテジスト