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上場インフラ株:
インフレに備え、構造的トレンドを捉える

2023-07-31
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継続的なサプライチェーンの混乱、エネルギー・コストの上昇、構造的変化によってインフレ圧力が高まり、景気の逆風となっています。このような中、インフレに対するヘッジ効果を持ち、景気変動の影響を受けにくく、さらには構造的成長のテーマを活用する機会をも提供する上場インフラ株が注目されます。

インフレ圧力が高まる今、投資リターンに対するインフレの影響を和らげることのできるグローバル上場インフラ株への選別的な投資を検討すべきと考えます。上場インフラ企業の多くは独占企業または寡占企業であるため、他社との競合がほとんどない、もしくは、全くない環境で、資本コストを上回る収益を確保することができます。この特徴が特に強いのが、私たちがエンデュアリング・アセットと呼ぶ分野の企業です。

エンデュアリング・アセットは、電力事業、データ・インフラ・プロバイダー、輸送インフラなど、安定的なインカムを生み出す耐用年数の長い実物資産を保有し、一定程度の規制あるいは契約によって保護された事業を営む企業です。こうした企業は競争力が高く、景気やコモディティ価格の変動の影響を受けにくい傾向にあります。エネルギー・セクターの脱炭素化と世界的なインフラ投資の拡大という対をなす長期的テーマを踏まえ、エンデュアリング・アセットへの投資は有望であると考えています。

インフレと金利上昇に対する防衛策

インフレに備えてポートフォリオの再構築を行う際には、幾つかのことに留意する必要があります。一部の上場インフラ企業はインフレから直接的に保護されています。例えば、欧州の規制公益企業の多くは事業展開地域のインフレ率に一定のスプレッドを上乗せした収益率の確保が保証されています。別の例としては、インフレ率と企業が利用者に課す料金との間接的な連動が挙げられます。この場合、コストが増加すれば、料金を引き上げ、インフレにより増加した営業費用を利用者に転嫁することで、予め取り決められた水準の収益率を維持することが可能です。さらに、インフレ率が高止まりした場合は、規制当局が、通常2~3年ごとに行われる料金見直しの際に、利用料を改訂します。

他の多くのインフラ形態もインフレから保護される傾向があり、ほとんどの有料道路はインフレ上昇分の一部を利用料金に転嫁することができます。また、石油・ガスの貯蔵や輸送設備の保有者、いわゆるミッドストリーム企業はエネルギー事業との関わりから、インフレとの相関性が高い傾向にあります。一方、通信回線やデータ関連のインフラ設備は、多くの場合、物価の上昇を顧客に転嫁することができるため、高い競争優位性を持ちます。つまり、エンデュアリング・アセットは、予想外のインフレ上昇の影響をコモディティほど直接的に回避することはできなくとも、より安定したリターンや中長期ではインフレを上回る高い実質リターンを提供する可能性があることから、インフレを考慮したポートフォリオの組み入れ銘柄として適しています。

金利上昇に関しては、それが急激かつ予想外のものであれば短期的にはエンデュアリング・アセットの逆風となり得ます。しかし、インフレと同様に、金利上昇によるコスト増、つまりは金利負担の上昇も最終的に利用者に転嫁されます。そして、名目金利が長期的に上昇すれば、例えば規制公益企業は、基準となる金利に一定のスプレッドを上乗せした収益率を確保することが認められる可能性があります。つまり、金利ヘッジ機能が内臓されているのです。

構造的な成長の可能性

コモディティと同様に、インフラ資産の過去1年間の市場全体に対する相対パフォーマンスが好調であるため、同資産クラスの成長はすでに織り込まれたのではないかと考える向きがあります。しかし、私たちは、短期では、特に株式市場の苦戦が続く場合に、上値の余地があるとみています。そして、長期では、2つのテーマがインフラ資産の追い風になる可能性があります。

第1の長期的テーマは、世界的なエネルギーの移行と、特に、米国・欧州・中国での脱炭素化に対する政府の強力な支援です。世界中で経済の電動化が進めば、電力需要は増加するでしょう。図表1が示すように、各国政府が二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを目指すネットゼロ目標に取り組めば、2040年の世界の電力消費量は2020年よりも70%増えることになります。

図表1
世界的な脱炭素化の流れの中で電力需要が増加傾向

OECD加盟国およびOECD非加盟国の予想電力消費量(テラワット時(TWh))

18960_Figure-1

1各国政府がすでに実施中あるいは発表した政策(Stated Policies Scenario:STEPS)のみを考慮したシナリオに基づく国際エネルギー機関(IEA)の試算値。
2各国政府の発表した公約が期限内に完全に達成されるシナリオ(Announced Pledges Scenario:APS)に基づくIEAの試算値。
出所:国際エネルギー機関(IEA)の”World Energy Outlook 2021”のデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。%は2020年からの予想増加率を示します。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。上記はあくまで例示目的で示しています。

世界中の国が配電網に投資を行い、再生可能エネルギー発電の能力を高め、輸送インフラの近代化と脱炭素化を推し進める必要があります。電力網、クリーンエネルギー発電、低炭素エネルギーや輸送インフラなど、エネルギー移行に不可欠な設備投資は大幅に拡大し、複数年に亘る投資機会を提供するでしょう。

足元のウクライナ紛争の激化は、欧州諸国のロシア産エネルギーへの依存度を根本的に引き下げる政策を加速させており、再生可能エネルギーやエネルギー効率化の技術への投資が増大しています。欧州の公益企業が十分なエネルギーを生産し、ロシア産原油やガスの輸入を削減するためには、風力・太陽光発電の能力を3倍に引き上げ、電力網への設備投資を拡大する必要があります。再生可能エネルギーの供給の増加に備え、国際間の相互接続を向上させるため、送電網は近代化する必要があります。天然ガスのインフラやグリーン水素(製造工程において二酸化炭素を排出せずにつくられた水素)への投資も必要でしょう。こうした差し迫った問題に加え、長期的な脱炭素化の流れや今後10年間のクリーンエネルギーへの投資増大の可能性を踏まえ、脱炭素化社会への移行が加速し、インフレ圧力は当面高いままであると予想しています。

第2の長期的テーマは、データインフラに対する投資です。かつてないほどのデータ需要の高まりと、この分野の近代化や能力拡大に対する各国政府の支援が相まって、セルタワー(携帯電話の基地局の鉄塔)、ブロードバンド・ネットワーク、携帯電話システムの開発が推進されるでしょう。この業界は総じて、業況が安定しており、着実な成長が見込める上、バリュエーションは依然として割安な水準にあります。繰り返しになりますが、上場インフラ企業の今後10年間の収益成長は平均を上回るとみられます。この成長可能性と脱炭素化やデータインフラ投資という長期的な追い風を踏まえ、上場インフラ株の上値余地は大きいと予想しています。

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トム・レヴェリング

グローバル産業アナリスト
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ティム・キャサレット

グローバル産業アナリスト