確固たるフレームワークがカギとなる、ラベル付き債券を評価

2022-12-31
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サステナブル債券市場は、発行体がより持続可能な将来に向けた資金調達を求める投資家および規制当局からの圧力の高まりに直面する中で、急拡大しています(図表1)。2021年にサステナブル債券の発行額は1兆米ドル超に倍増し、2022年には新規発行額全体の減少が予想されるにもかかわらず、2021年の数値を上回ると予想されます。グリーンボンドは、引き続きラベル付き債券ユニバースの中で最も一般的な商品であり、2022年にサステナブル債券の総供給額の52%を占めると予想される一方、サステナビリティ連動債券(SLB)は、最も急速に成長を遂げている分野です1

本稿では、ラベル付き債券のポートフォリオへの適合性を評価するための確固たるフレームワークを構築する重要性を考察し、グリーンウォッシング(見せかけの環境への配慮)に対抗するためにエンゲージメントの優位性をいかに活用できるかを紹介します。

1出所:クレディ・アグリコル

図表1
サステナブル債券市場は急拡大

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出所:ブルームバーグNEF、ブルームバーグLPに基づきウエリントン・マネージメント作成。ブルームバーグNEFのサステナブル債券ユニバースは、国際資本市場協会(ICMA)と国際ローン市場協会(LMA)が定める資金使途の要件に従ったグリーンボンド、グリーンローン、ソーシャルボンド、サステナビリティボンドで構成されています。このユニバースには、ICMAとLMAが設定したガイドラインに従ったサステナビリティ連動債券とサステナビリティ連動ローンが含まれています。

ラベル付き債券概観

資金使途を特定した(Use-of-Proceeds:UoP)債券

発行時に提示された重要業績評価指標(KPI)および資金使途(UoP)に応じて、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナブルボンドは、投資家がそれらの債券への配分を通じて社会・環境面の目標達成をめざし、インパクト投資ポートフォリオの中で伝統的な債券を補完することができます。

資金使途を特定した(UoP)債券の魅力をさらに高めると考えられる二次的な利点として以下が挙げられます。

  • 透明性:グリーンボンド、ソーシャルボンドまたはサステナブルボンドの発行後、発行体は調達資金を配分する厳密なプロジェクト、金額、目標のインパクトおよび(未)達成度を報告します。この報告により、投資がもたらすインパクトについての検証、計測、報告に役立ちます。
  • ダウンサイド・プロテクション(下振れ抑制):ボラティリティが高い局面において、資金使途を特定した(UoP)債券は、通常の債券ほど急激に下落しない場合があります。これは、流通市場において際立つグリーンプレミアムに繋がる可能性がある一方で、グリーンボンドが底堅い特性を発揮し、市場ストレス局面でより安定したリターンを提供する可能性を示しています。

サステナビリティ連動債券(SLB)

SLBは、発行体が資金使途を社会・環境関連プロジェクトに限定することなく、資金調達を行うことを可能にします。その代わりに、SLBは製品の製造に伴う温室効果ガスの総削減量など、借り手の持続可能性プロファイルの改善を評価するサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)に将来の利払いを連動させます。一部の発行体は、SLBに頑健性がない、またはサステナビリティに関する目標を念頭において調達資金を配分するインセンティブがないとの批判にさらされてきました。

しかし、私たちは、強固なSLBをポートフォリオに組み入れる余地はあると見ています。SLBの魅力を高める二次的な特性として以下が挙げられます。

  • 説明責任:SLBは、企業がサステナビリティへのコミットメントを実証する代替的な仕組みを提供します。SLBは、利払いが目標の達成に連動するため、目標が達成されない場合、発行体に経済的ペナルティが直接課されます。
  • 柔軟性:SLBは、発行体に資金使途を特定した(UoP)債券よりも大きな柔軟性を与えます。SLBは、製品・サービスが社会・環境面のインパクトを直接与えない発行体を含め、より多様な発行体がサステナブル債券市場に参入することを可能にし、それによって、より多くの発行体の業務の持続可能性向上に向けた集団的努力の拡大を促進することができます。

フレームワークの構築

ラベル付き債券は、インパクトの創出を追求する上で、公募債券市場における有益なツールの一つです。私たちは、整合性の高いインパクト投資およびグリーンウォッシング対策へのコミットメントに忠実であり続けるよう徹底する目的で、ラベル付き債券のフレームワークを構築しています。私たちのベスト・プラクティスは、以下のとおりです。

資金使途を特定した(UoP)債券

資金使途の基準

ラベル付き債券市場は標準化されていないため、調達資金の社会・環境プロジェクトへの配分割合は様々です。投資の重要性を最大化するため、調達資金の90%以上が適格プロジェクトに配分される債券を選好します。

1. ルックバック期間
既存または過去のプロジェクトのリファイナンスのために発行される資金使途を特定した(UoP)債券もあります。長期プロジェクトのリファイナンスへのエクスポージャーを許容することもありますが、通常のルックバック期間は最長2年です。これにより、新規プロジェクトへの資金供与を優先します。

2. 業務の持続可能性
一部のセクターは、私たちのインパクト目標とは根本的に合致しないと考えるため、投資対象ユニバースから除外されます。これらのセクターの発行体による「資金使途を特定した」債券には投資しません。発行体のビジネスモデルがインパクトに適合しなくても、証券レベルで評価する場合、投資プロセスにおいてその業務やビジネス慣行の持続可能性を考慮します。

3. バリュエーション
ある債券が投資ユニバースに適格か否かを判断した後、ファンダメンタル分析によって、当該債券がポートフォリオのリスクとリターン目標に適合するか確認します。

サステナビリティ連動債券(SLB)

SLBのより柔軟な構造は、規制の不在と相まって、グリーンウォッシングの機会を生じさせます。私たちは、SLBの構造に細心の注意を払い、債券が私たちの整合性の高いインパクト投資アプローチと合致するように確保します。

1. サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)
私たちは、意欲的なSPTを設定し、将来の目標が達成されない場合に、クーポンのステップアップなどを通じて有意な経済的ペナルティを課している発行体を選好します。発行体が通常の事業活動を通じて達成を計画していた目標に沿った目標を設定していたり、ステップアップが小幅または利払いサイクルの終盤に実行されるなど、ペナルティが最小限の発行体は回避します。

2. 一貫した重要業績評価指標(KPI)
私たちは、一貫したKPIを利用してSPT達成への進捗をモニタリングする発行体を選好します。発行体は過去のKPI水準を報告し、一貫した基準金利を使用し、エンゲージメントおよび参照するKPIが変更された場合の潜在的なダイベストメント(投資撤退)を通じて説明責任を果たすべきであると考えています。

3. 業務の持続可能性
資金使途を特定した(UoP)債券の場合と同様に、私たちのインパクト目標に合致しないセクターの発行体によるSLBには投資しません。

4. バリュエーション
資金使途を特定した(UoP)債券の場合と同様に、財務特性を評価し、ポートフォリオのリスクおよびリターンの目標への適合性を判断することが不可欠です。

エンゲージメントの優位性

私たちのラベル付き債券のフレームワークは、ウエリントンの債券シンジケート・トレーディング・デスクにより補完され、同デスクがセルサイドと連携することで恩恵を受けています。私たちはエンゲージメントを通じて、ラベル付き債券の募集における構造的な不備を示し、発行体にアドバイザーを通じて伝達します。また、今後の案件についてプレマーケティングの段階で発行体と面談し、サステナブルボンドを強固に構築する方法について助言します。サステナブルボンドの発行構造および特定のESG関連の質問に関するダイナミックな対話に関与することによって、発行体のサステナビリティへの取り組みに関する理解を深め、サステナビリティ目標へ向けて真剣に取り組んでいるかどうかを見極めることができます。

以下に、3つのエンゲージメント事例を紹介します。

グリーン・ソブリン債

  • 問題:調達資金の配分に関する確証がない
  • エンゲージメント:ディスクロージャーの改善および資金使途の記録と独立した検証を要求するため、ソブリン債オフィスとの面談を要請
  • 結果:発行体は、資金使途のモニタリングおよび検証のため独立した監査法人を採用。新規発行に参加

サステナビリティ連動社債

  • 問題:発行体がSPTを達成しない場合のペナルティが最小限
  • エンゲージメント:SPTが達成されない場合の利払いステップアップの前倒しを期待しており、25bpsのクーポン・ステップアップでは不十分である旨を発行体に指摘
  • 結果:新規発行に不参加

グリーン社債

  • 問題:発行体のサステナビリティへの取り組みに関する私たちの理解にギャップがあり、グリーンボンドの構造について質問
  • エンゲージメント:発行体の財務部門およびサステナビリティ・チームと対話し、私たちの確固たるESG基準を説明
  • 結果:強力なESG投資家としての立場を明確にしたことで有利な配分を取得し、新規発行に参加

まとめ

サステナブル債券市場は初期段階にあり、企業および政府による二酸化炭素排出量削減へのコミットメントが継続的に確立され、投資家からの需要が増大していることを踏まえ、ラベル付き債券市場は急速な拡大を続けると予想しています。この変化は、ESGまたはインパクトの視点に立つ投資家に課題をもたらすでしょう。 

 ラベル付き債券市場には現在、規制がないものの、欧州グリーンボンド基準が実施されれば、グリーンボンドの透明性および頑健性が高まると予想しています。これはグリーンボンドに関する新たな判断基準に繋がり、発行体にラベルを取得するよう圧力を加える可能性があります。同じ原則は、ソーシャルボンドやサステナブルボンドの基準策定にも利用され、サステナブル債券発行全般にわたる統一性を高める可能性があります。逆に、欧州グリーンボンド基準が実施されれば、基準を満たさない既存のグリーンボンドの魅力が損なわれる可能性があります。そうなれば、「持てる者と持たざる者」の価格格差を生み出し、より強固かつ意欲的な条件を奨励し、持続可能な将来への移行を支える可能性があります。 

 規制の有無に関わりなく、責任あるアセット・オーナーがラベル付き債券の分析に関する確固たるフレームワークを有することは不可欠であり、それが最終的に市場においてより確固たるESG基準を制定するとともに、現実の世界にインパクトをもたらす可能性を高めることに役立つと考えています。

skinner-paul

ポール・スキナー

インベストメント・ディレクター
Campe Goodman

キャンプ・グッドマン

債券ポートフォリオ・マネジャー