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リリアナ・ダース
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ESG投資の一つ「インパクト投資」と注目を集める新興国において、ウエリントン・マネージメント(以下、ウエリントン)は最新の知見と現地に根差した独自のリサーチで投資機会を発掘しています。
高い成長機会とボラティリティが同居する新興国で、いかに質の高いインパクト企業を見極めるか――。「新興国インパクト運用戦略」のポートフォリオ・マネジャーのリリアナ・ダースに、投資哲学とこれまでの歩みを聞きました。
私たちウエリントンが新興国に注目した第1の理由は、新興国はどこよりも地球環境問題や社会的課題の解決を必要としている点です。欧米の先進国に比べて、新興国には依然として企業や政府、慈善団体などが対応しきれていない社会的ニーズ「アンメットニーズ」が数多く存在しています。これらの課題の解決に貢献する革新的な事業や技術を手がけるインパクト企業は、新しい市場を切り拓き、相対的に大きな成長機会と企業価値向上が期待できるでしょう。
第2に、初期段階にある新興国のインパクト投資市場は急速にその規模を拡大していることです。新興国の消費者意識は、生活の質向上や環境改善を求め変化しています。それに伴い、公共政策も経済発展と持続可能性を重視し、領域を拡大しています。このムーブメントは、新興国のインパクト企業にとって強力かつ持続的な追い風になっています。
第3の理由は、飢餓、非識字、男女格差、医療不足、気候変動など社会的課題や地球環境問題のスケールの巨大さと、その解決における投資家、政府、そして企業の役割の大きさです。
世界最大の問題は、世界最大のビジネスチャンス=成長機会をもたらします。過去5年間の売上成長率は、ウエリントンの「新興国インパクト運用戦略」における投資ユニバースが29%で、新興国株式指数1の18%を超えています。また、今後5年間の予想1株当たり利益(EPS)は投資ユニバースが24%で、新興国株式指数の19%を上回ります。
1MSCIエマージング‧マーケット指数。2022年3 月末時点。出所:ファクトセット、ウエリントン。
「新興国インパクト運用戦略」は、世界の上場株式や債券を投資対象とするウエリントンの他のインパクト運用戦略と同じく、「衣食住の確保」「生活の質向上」「環境問題」の3つの分野から成る11の投資テーマに基づき、新興国におけるインパクト企業への投資機会を追求します。投資候補銘柄は、「重要性」「追加的効果」「定量化」の基準で選定します。市場が見過ごしている成長企業の中から、11の投資テーマに沿って、これら3つの基準で絞り込みます。
投資候補銘柄は、「重要性」「追加的効果」「定量化」の基準で選定します。市場が見過ごしている成長企業の中から、11の投資テーマに沿って、これら3つの基準で絞り込みます。
3つの基準で投資候補銘柄を絞り込んだ後は、ウエリントン独自のプロセスで各企業のファンダメンタルズ分析を行います。特にインパクトが定量評価でき、市場コンセンサスとの差別化要素や魅力的なリスク調整後リターンが期待できるかを重視し、さらに選別します。
ウエリントンのインパクト投資は、銘柄を選びポートフォリオを構築して終了ではありません。現実世界の変化を後押しするため、投資先企業に社会的課題解決へのインパクトに関する情報開示を働きかけ、投資家や企業の顧客に対する理解促進を支援します。
図表1
ウエリントンのインパクト投資の11の投資テーマ
2022年5月現在。投資テーマはウエリントンが独自に設定したものであり、将来変更される場合があります。また、上記投資テーマのうち、複数の投資テーマにまたがる事業を行う企業へ投資する場合もあります。資金動向、市況動向等によっては、上記のような運用ができない場合があります。
新興国株式は、一般に為替の変動や低い流動性、国ごとに異なる規制などを背景に、相対的にボラティリティ(価格変動幅)が高く、特に投資銘柄数を絞り込む集中投資においては価格変動リスクが増幅する傾向にあります。さらに、金融機関のアナリストによる企業のカバレッジ率は先進国と比べて低く2、それゆえ、グローバル規模の運用体制と現地に根差したボトムアップのアクティブ運用が強みを存分に発揮できるフィールドと言えるでしょう。
ウエリントンは世界各地に運用拠点を有しています。そして「新興国インパクト運用戦略」では、現地に密着した「グラスルーツ(草の根)」調査や私たちの実体験を重視したボトムアップ・アプローチにより、革新的なインパクト企業を厳選しています。
2出所:ファクトセット、ウエリントン。
変化のスピードが早い新興国において、質の高いインパクト企業への長期的な投資機会を発掘するためには、現地の市場と変化し続ける消費パターンへの深い理解が不可欠です。
私はベネズエラで育ち、その体験が新興国への投資哲学に大きく影響しています。新興国市場には、政治・経済に不安要素を抱える国が多いと言えます。私はベネズエラの政治・経済の混乱を通して、経済成長を長期に持続させることの重要性を学びました。かつてベネズエラは計り知れない可能性を秘めた豊かな国でした。しかし、原油・鉄鉱石などの資源や広大な耕地を有しながらも、独裁体制のもと経済・人道危機が深刻化し破綻状態が続いています。
だからこそ私は国や企業の将来性について、目先の出来事にとらわれず長期的視野に立ちながら、リスクとガバナンスを重視してサステナビリティ(持続可能性)の観点から見極めることが欠かせないと確信しています。企業ファンダメンタルズに関するリサーチに加え、新興諸国の政治、文化、そして現地の消費者の期待や要求を理解することが重要なのです。
私は24年間にわたり新興国市場への投資に携わっています。ケニアからインドの農村、南米大陸の最南端まで足を運び、各地域がどのように成長・投資機会を創出しているか、自身の目で確かめ理解を深めてきました。今回は、特に印象深い2つの事例を紹介しましょう。
インフラ整備が社会階層の壁を壊し、変化の扉を開く
2019年にインドの最貧州の一つであるビハール州を訪問した際、インフラが整備されたおかげで生活が改善した農民の一家に出会いました。この一家は3年前の2016年までガスランプの照明だけで生活し、最寄りの都市まで未舗装の道路をトラックで通っていました。
しかし、電力の安定供給と道路の整備が進み、一家の息子は都市の学校に通うことが可能になりました。息子はパートタイムの仕事をしながら勉強を続け、中古のパソコンと携帯電話を購入。そしてYouTubeの動画を駆使しながら、父親に家畜の糞尿を安価で有効な肥料に変える方法を説明し実現しました。インフラ整備はこの一家に学習機会をもたらし、「ソーシャル・モビリティ」(社会階層の壁の崩壊)への扉を開いたのです。次世代とって、より尊厳のある生産的な生活の実現につながっていくでしょう。インフラ整備は、インドをはじめ新興国の人々の生活を大きく変えています。私は現地調査を通してこの長期的な構造的トレンドを推進するとともに、その恩恵が見込まれるインパクト企業の発掘に努めています。
深刻な環境汚染が示すクリーンエネルギーの可能性
私は2018年、北京から2時間の距離がある河北省石家荘市に住む若い家族を訪問しました。ここは2017年に経済特区に指定されましたが、1 年のある時期には付近の工場の大気汚染レベルが高まり、家族は健康への影響を懸念していました。子供が外に遊びに行くことさえできないときもあり、同地域の多くの住人と同じく、経済的に余裕があれば移住を望んでいました。
世界の中でも特に新興国では、環境汚染を理由とした移住が増えています。一方、このことは新興国に再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーのほか、電気自動車(EV)や環境に配慮した製造方法などの分野に新市場を切り拓く余地が多いことを示しているでしょう。
消費者の環境意識の高まり、急速に普及する耐久消費財、生活の質向上へのこだわり――。このような新興国におけるインパクト投資が市場や企業業績に与える影響は、先進国のそれを上回ることが期待されます。ここでは代表的な企業と商品・サービスを取り上げます。
グリーン志向に応える安価で安全なEV用電池
世界最大の自動車市場の中国では、消費者のグリーン志向と電気自動車(EV)の価格低下を受け、今後EVの需要が急増すると予想されます。2020年の中国の新車販売に占めるEVの割合はわずか5.8%でしたが3、今後5年間で41%程度に達すると予測されます。国際エネルギー機関では、世界の新車販売に占めるEVの割合が現在の4.6%から2025年に32%まで拡大すると分析しています4。
EV増加の一方で、EVに欠かせない高性能な電池が不足しています。そこで「新興国インパクト運用戦略」は、中国浙江省寧波市の中国大手EV用電池メーカーに着目しました。この電池メーカーは、優れた研究開発を確立し、より安価で安全なLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池を手掛ける大手企業で、長期的に大きな成長が見込まれます。また、EV普及に伴い、温暖化ガスや汚染物質の排出量削減への貢献も期待されます。
3China Passenger Car Association. Monthly Database Update.
4International Energy Association, EV Outlook 2021.
フロン排出を抑制できるガラス繊維
中国では主要先進国とは異なり、冷蔵庫などの家電製品にエネルギー消費効率の基準が設けられていません。エネルギー消費効率を高めれば、電気の消費量が減り、温暖化ガス排出量の削減にもつながります。また、中国で販売されている冷蔵庫の大半が、依然として硬質ウレタンフォーム(PUF)製の断熱材を使用しているとみられます。
しかし、その断熱材の発泡剤として用いられるフロンは環境破壊や地球温暖化の原因となっています。私たちは、環境に優しいガラス繊維の断熱材を製造する企業に注目しています。この素材を使うことによりフロン排出が抑制でき、エネルギー消費効率を高めることができます。同社は同じ素材技術を用いて、コールドチェーン(低温物流)施設や住宅・商業ビル用の断熱材も製造しています。環境配慮型素材の品質向上とコスト削減を目指し、研究開発に引き続き資金を投じ、家電製品のフロン排出量とエネルギー効率化に貢献しています。
貧困女性向けのマイクロファイナンス
新興国では、活躍推進(エンパワーメント)の課題解決を支援する分野にも大きなビジネスチャンスがあります。特に社会的弱者への経済的な機会を提供するには、誰もが金融サービスを受けやすくする「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)」の推進が鍵です。
テクノロジーの進歩は、金融サービスへのアクセスのしやすさを後押ししています。例えば、インドネシアでは人口の約8%を占める女性が銀行口座を持たないなど金融サービスを受けることができません。そこで私たちは、貧困女性にマイクロファイナンス(小口融資)を提供し、生活の質の向上に貢献しているインドネシアの金融機関に着目しました。
多くの女性たちは、グループローンを利用し、互いの事業を支え合っています。ローンの延滞率は非常に低く、銀行の収益も魅力的な水準です。最も重要なのは、融資を利用することで貧困女性およびその家族の教育や生活環境が改善していることです。そして、顧客のロイヤルティ(忠誠心)がこの銀行の長期的な企業価値向上につながっていくと見ています。
新興国には、企業や政府、慈善団体などが対応しきれていない社会的ニーズ「アンメットニーズ」が多く存在しています。それゆえ、生活の改善や地球環境の保全をはじめ社会的課題の解決につながる事業や技術を手がける革新的なインパクト企業は、今後数年にわたり長期的な成長機会が見込めるでしょう。私たちはそうしたインパクト企業への投資機会を、第一線の知見と現地調査を通して発掘しています。
インパクト投資は、地球環境問題や社会的課題の解決につながる事業や技術を手がけ、プラスのインパクト(影響)を与える革新的企業=インパクト企業に厳選投資することで長期の投資収益を目指す手法です。インパクト企業への投資は、対象企業の持続的成長を支えると同時に、社会と経済の課題解決を促し、投資家には収益チャンスをもたらすと言えます。
ウエリントンのインパクト投資の歩みは1970年にまでさかのぼります。この年、市場で見過ごされている長期的な投資アイデアの発掘を目的とした運用リサーチ・プロジェクト「Future Themes(将来テーマ)」がスタート。以後、ウエリントンでは、7 年ごとに世の中やマーケットのトレンドを先取りした有望な将来の投資テーマをピックアップしています。
2012年はテーマの一つに「水不足」を選択しました。運用担当者らは、世界の水不足問題に関連する潜在的な投資機会をリサーチ。その後、未上場株式に投資するインパクト投資の手法をモデルに数年にわたり投資アイデアの検討を重ねました。この過程で「水不足」のほかに10の長期的な投資テーマが加わりました。
この11の投資テーマをもとに、2015年、ウエリントンのインパクト投資商品の第1号として世界の上場株式を対象とした「グローバル・インパクト運用戦略」の運用を開始。2017年には、債券版の「グローバル・インパクト・ボンド運用戦略」をラインアップに加えました。
そして2021年、新興国株式に投資する「新興国インパクト運用戦略」を設定しました。現在、ウエリントンが運用するインパクト投資の運用資産残高は合計約40億米ドル(約4,900億円*)に上ります。
*2022年3月末現在。1米ドル=121.38円換算。
普通株リスク:普通株は、経済情勢、政府の規制、市場センチメント、国内外の政治情勢、 環境· 技術問題、個別企業の収益性· 存続可能性等、多くの要因の影響を受けます。株価はこれら要因の悪化により下落することがあり、ポートフォリオ· マネジャーがそうした変化を予測できるとの保証はありません。一部の株式市場は他の市場よりも大きく変動し、損失リスクが大きくなることがあります。普通株は発行体に対する資本持分又は所有持分を示します。
集中投資リスク:集中投資リスクは、特定の証券、発行体、産業又は国に対する投資比率が高いために損失が増幅するリスクです。複数の投資ポジションの価値が、産業、セクター、国及び地域の状況に反応して同じ方向に変動したり、単一の証券又は発行体がポートフォリオのリスク及びリターンに大きな影響を与える可能性があります。
通貨リスク:通貨へのアクティブ投資は、他の一つ以上の通貨に対する当該通貨の相対価値が変動するリスクを伴います。通貨に対するアクティブ· リスクを取る場合、絶対ベース又はベンチマークとの相対ベースでポジションを組むことがあります。通貨市場は激しく変動することがあり、短期間に不安定化することがあります。
エマージング市場リスク:エマージング市場及びフロンティア市場への投資は、為替レートの変化、 市場流動性の低さ、情報不足、取引所· ブローカー· 発行体に対する政府の監視不行き届き、不確実な経済· 政治情勢、激しい価格変動等のリスクを伴います。これらリスクが先進国市場のそれと比較し大きくなる可能性があります。
小型株リスク:中小型株の株価は大型株のそれよりも変動が大きくなることがあります。さらに中小型株の流動性は、多くの場合、大型株よりも低くなります。
その他のリスク
デリバティブ商品リスク:デリバティブは変動が激しく、様々なレベルのリスクを伴います。その価格は、市場全体の変動、当該企業の事業· 財政状況、指数の変動、金利の変化、特定産業又は地域に特有の要因等の影響を受けることがあります。デリバティブ取引は、契約締結時に支払った又は預託した金額以上の市場エクスポージャーを取る場合があるため、市場の悪化の程度が比較的小さくても、投資元本の喪失に留まらず、それを超える損失を被る可能性があります。また、原資産又は基準となる指数と完全には連動しないことがあり、追加的な流動性リスクやカンターパーティ· リスクを被ることがあります。デリバティブの種類には、先物、オプション、スワップ等があります。
流動性リスク:流動性が低い証券(小型株、プライベート· エクイティ又は私募債券)への投資は、取引高が少ないために市場価格の大幅な変動に見舞われることがあります。また、適正価格で売却できる保証はなく、割安な価格で売却されることがあります。こうした証券は運用口座の全部解約に際して、清算日以降も保有を余儀なくされることがあります。
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