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気候変動に着目した、
マーケットニュートラル運用

2023-05-31
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要旨

  • 気候変動は、企業、産業、経済に急速かつ広範囲にわたり不均衡な混乱をもたらしており、投資方針に大きな影響を及ぼしつつある。
  • 気候変動に着目したロング・オンリーとマーケットニュートラルの両アプローチは、いずれも投資家の投資ホライズンとボラティリティに対する許容度によって、魅力的な投資手法となり得る。
  • マーケットニュートラル運用は、幅広い投資機会を提供し、低ボラティリティかつ株式市場と低相関の絶対収益の獲得を追求することが見込める。
  • 中立性が損なわれる可能性や意図しないファクター・リスクなど、マーケットニュートラル運用の潜在的リスクを能動的に低減することが重要である。

気候変動が明白となり、その市場への影響が強まる中で、アセットオーナーは気候変動が投資に与える影響に一層配慮しています。‌しかし、この新たなメガトレンドにどのように投資するかが依然として問題です。‌本稿では、非効率性をより有効に捉え、リスクを低減する可能性など、気候変動に着目したマーケットニュートラル運用の潜在的な利点とリスクについて考察します。

気候変動が投資に与える影響 

気候変動の影響は異常気象や気象災害に留まりません。‌気候変動は産業全体を混乱させる可能性があるマクロ要因です。‌気候変動は、既に世界規模で規制、消費者の嗜好、テクノロジー、クリーン・エネルギー、保険、住宅、人口動態、気候リスクデータに大きな変化を引き起こしています。‌ほとんどの企業が何かしら気候変動の影響を受けており、ビジネス・モデルにリスクと機会の双方をもたらしています。

‌しかし、すべての企業が同じ時間的な枠組みまたは妥当なコストで、気候変動によるリスクとビジネス機会に同等に対応できるわけではありません。そのため、相対的な勝ち組企業と負け組企業を生み出しています。気候変動の産業と企業への影響や対応は一様ではないため、最も広範囲の企業が現在直面しているマクロ要因であり、投資方針を決定する上で重要な要素であると、私たちは考えます。

気候変動の視点をポートフォリオに組み込む 

気候関連投資に対する関心がアセットオーナー間で高まっている中、どのように投資を行うかという課題が重要な分岐点となります。‌それに対応する投資手法の一つがロング・オンリーの運用であり、私たちはこのアプローチ‌がより長い投資ホライズンでは妥当であると考えます。‌しかし、このアプローチに伴うベータやボラティリティが短期的に大幅なドローダウンにつながる可能性もあります。特にエネルギーやテクノロジーなど気候変動の影響を受けやすいセクターは、不人気で買い手がいない局面において短期的にボラティリティが高まる可能性があります。‌ボラティリティをある程度低減するためには、マーケットニュートラル運用が有効と考えます。

気候関連投資におけるマーケットニュートラルの利点

気候関連投資におけるマーケットニュートラル運用には2つの利点があります。1つ目は、その幅広い投資機会です。‌2つ目は、低ボラティリティかつ株式市場と低相関の絶対収益の獲得を追求することが可能であることです。

マーケットニュートラルの幅広い気候関連投資機会1

‌ロング・オンリーの運用は、気候リスクへの対応やビジネス機会から恩恵を受ける企業に投資することができます。一方、マーケットニュートラル運用は、気候変動への対応の勝ち組企業へのロングと、恩恵を受けない企業や恩恵を受けにくい負け組企業をショートすることで利益を追求することができます。

‌これまで気候関連のロング・オンリーの運用は、ESGの投資機会への資本流入の恩恵を受けてきましたが、意図しない結果も生じています。すでに気候変動の緩和や適応に貢献している企業に投資するという点では「良い」ことです。‌ただし、それは主にESG投資戦略やETFにおけるマテリアリティ(重要性)の組み入れ基準を現在満たす企業に影響を与えています。‌こうしたアプローチは、当該基準を満たしていないものの、より環境に優しい世界への移行に向け、研究開発に積極的に投資し、製品ラインを変更し、ビジネス・モデルを転換している企業を投資対象から除外することになります。

‌ロング・オンリーの運用の多くはこうした現状追認型投資で将来の方向性を軽視する傾向にあるため、結果として気候変動に貢献する多くの銘柄が過小評価されていると考えます。投資の基本理念の一つは、将来のキャッシュフローの割引価値に基づいて企業を評価することにあるため、これは異例の状況です。‌ネガティブ・スクリーニングの基準として利用するなど、企業の現在のESG評価のみを重視することによって、将来のESGの勝ち組企業を無視することになるかもしれません。‌このような市場の動きは、マーケットニュートラルのロング/ショート運用が「見せかけのネガティブ」へのロングと、「見せかけのポジティブ」をショートすることで捉えることができる、大きな非効率性と投資機会を生み出しているといえるでしょう。

1ESGファクターは、個別企業への配分を決定する際の考慮事項ですが、必ずしも投資ユニバースから個別銘柄を除外するものではありません。マーケットニュートラル運用は、気候変動の緩和や適応に関して相対的に脆弱または悪化している立場にあり、気候変動から不利益を被る企業をショートとすることができ、それによって、気候変動のマイナス効果から利益を得る可能性があります。

ロング/ショートの気候関連投資機会 

‌「見せかけのネガティブ」は、気候変動の影響を受けにくいビジネス・モデルへの転換に成功しており、魅力的なファンダメンタルズを有しているものの、ESG投資戦略の組み入れ基準を現在満たしていないため、魅力的なバリュエーションで取引されている企業をロングする投資機会です。‌例として、ビジネス・モデルを電気自動車(EV)の生産・販売にうまく転換しているものの、EVの売上高がインパクト投資アプローチに一般的に必要な50%以上の組み入れ基準を、投資期間内に満たす可能性が高くても、現在は満たしていない自動車会社が挙げられます。

‌一方、「見せかけのポジティブ」は、気候変動に関して現在は競争優位性があるが持続可能な競争優位性を確立しておらず、ファンダメンタルズが脆弱または悪化しているものの、ESG投資戦略の組み入れ基準を現在満たしているため、割高なバリュエーションで取引されている企業をショートする投資機会です。‌この「ハロー効果」を伴う企業の例として、既存企業と新規参入企業の双方による競争が激しいEV業界で持続可能な競争優位性がないと考えるEV主体の特別買収目的会社(SPAC)が挙げられます。 

図表1は気候関連におけるロング/ショートの主な投資機会を示しています。 

図表1
気候関連のロング/ショートの投資機会

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出所:ウエリントン・マネージメント。上記はあくまで例示目的で示しています。投資機会が利益を生むもしくは損失を回避できることを保証するものではありません。 

つまり、ロング/ショートの投資機会は、その他多くのインパクト投資、テーマ投資、ロング・オンリーよりも遥かに広いと言えるでしょう。株価と本源的価値の乖離が拡大している現状の環境下では、気候変動テーマの中で次のようなロングとショートの投資機会をもたらすと考えています。

図表2
気候変動投資テーマ2

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2出所:ウエリントン・マネージメント。上記はあくまで例示目的で示しています。‌これらの例は、投資機会に含まれるようなテーマおよび企業を例示することのみを目的としています。アプローチが運用目標を達成するもしくは大幅な損失を回避できることを保証するものではありません。 

マーケットニュートラルの気候関連投資が絶対リターンを創出する可能性

マーケットニュートラル運用の2つ目の主な利点は、気候関連投資が不人気で買い手がいない局面において、低ボラティリティかつ小幅のドローダウンで絶対収益の獲得を追求することが可能になります。‌気候関連投資において、エネルギーやテクノロジーなどのセクターのボラティリティの上昇は重要な留意事項です。‌投資ホライズンが十分に長ければ、ロング・オンリーの運用でも期待リターンを達成できるかもしれません。ただし、中期的なボラティリティおよび下落幅が大きくなる可能性があります。‌一方、マーケットニュートラル運用は、低いネット・エクスポージャーおよび低い株式ベータを追求するとともに、徹底したリスク管理によりリスクを低減することがめざせます。

マーケットニュートラル運用の潜在的リスク

気候関連のマーケットニュートラル運用にも、リスクが存在します。‌最も大きなリスクは、求められている中立性が崩れ、意図した以上に市場の方向性の影響を受ける可能性などが挙げられます。‌マーケットニュートラル運用は、株式のネット・エクスポージャーが低くなるようにロングとショートのポジションを構築する場合があります。‌そのためにはアプローチの株式ベータ全体を最小化するように、ロングとショートのベータ調整後エクスポージャーを考慮しなければなりません。

‌ベータやネット・エクスポージャーに加え、ファクター・エクスポージャーの考慮も重要になります。‌これは意図せずモメンタムやバリューといったファクターに偏向し、投資戦略の中立性が損なわれるリスクにつながる可能性があるからです。‌リスクを低減するには、ファクター・リスクの最小化に寄与する傾向がある同一セクター内でのロングとショートのポジション調整が不可欠です。‌例えば、公益事業株式はバリューなどのファクターに基づいて取り引きされる傾向にある一方、クリーン・テクノロジー関連の株式は、モメンタムに基づいて取り引きされる傾向にあります。‌そのため、公益事業のロングとクリーン・テクノロジーのショートは、バリューのロングとモメンタムのショートと同じファクター・リスクを組み込み、ベーシス・リスクにつながる可能性があります。また、ファクターが不利に動く場合、アプローチの中立性を損なう可能性があります。‌そのため、例えば、公益事業株式およびクリーン・テクノロジー株式でロングとショートを構築することで、同一ファクターをロングとショートとすることによりリスクを低減することができるでしょう。

‌3番目のリスクは、マーケットニュートラル運用が気候関連投資に関する異例の強気相場で潜在的リターンを低下させる可能性です。‌これはむしろ機会損失のリスクですが、ロング・オンリーとマーケットニュートラルのどちらのアプローチが適切かを評価する際に重要なポイントです。マーケットニュートラル運用は、気候関連投資が不人気で買い手がいない局面ではロング・オンリーと比べて下落幅が小さい可能性があり、この逆のケースも考慮する必要があります。

4番目のリスクは、マーケットニュートラル運用がほとんどのロング/ショート運用と同様に、プライム・ブローカーによる財務レバレッジを採用することです。‌レバレッジは、アプローチのグロス・エクスポージャーにより計測可能で、多くの場合、100%を大幅に上回る可能性があります。‌そのレバレッジをどのように適用するるかを考慮することが重要と言えるでしょう。‌例えば、流動性が高い大型株へのレバレッジの適用は、流動性が低い小型株に比べて低水準のリスクにとどまると予想されます。‌証券タイプ、特にデリバティブも別の形でレバレッジをもたらす可能性があります。

‌気候関連のマーケットニュートラル投資に関する結論

‌気候変動は既に大半の企業に影響を与えており、銘柄間格差を生み出すマクロ要因の一つになっています。‌この格差を捉えるためのESGまたは気候関連の投資はロング・オンリーが主流でした。気候関連のロング・オンリーの運用は、現在、気候変動の緩和策や適応策を推進している企業に焦点を当てています。‌加えて、ロング・オンリーは、短期的なボラティリティに耐えられれば、長期にわたり投資収益を獲得することが見込める手法と言えるでしょう。

‌一方、気候関連のマーケットニュートラル運用は、気候変動の企業への影響や将来の潜在的な影響や、多くの既存のESG投資アプローチが持つ現状追認型投資が生み出す非効率性など、幅広い投資機会を捉えることができます。‌さらに、気候関連投資が不人気で買い手がいない局面でロング・オンリーのダウンサイドリスクを低減することができるほか、‌伝統的なグローバル株式との相関が潜在的に低いため、低ネット・低ベータ戦略の選択肢として考えることができるでしょう。


主要リスク

市場リスク:低ベータが期待されますが、時には限定的なディレクショナル・エクスポージャーを取る可能性があります。主に株式のロング/ショートの双方に投資します。時には株式のようなボラティリティに直面する可能性があります。時に市場は高いボラティリティや予測不可能な事象に直面する可能性があります。

広範な投資の柔軟性:非ベンチマーク志向で、投資制限はほとんどありません。重視する地域、セクター、時価総額、資産クラスは時間の経過とともに変化する可能性があります。ネットエクスポージャーは柔軟に調整し、運用マネジャーのバイアスは環境に応じて変化する可能性があります。

レバレッジ・リスク:レバレッジの利用は投資損失のリスクを高める可能性があります。

流動性リスク:小型株へ投資する可能性があります。流動性の低い私募債券への投資(投資時最大5%)を許可しています。

国/通貨リスク:米国以外の企業へ投資する可能性があります。

デリバティブリスク:先物、スワップ、オプション、フォワードなどのデリバティブ、株式、コモディティ、債券、金利、クレジット、その他債券、通貨、指数、その他証券バスケットを利用する可能性があります。コモディティ取引は大きな損失リスクが発生する可能性があります。

カウンターパーティーリスク:プライムブローカーおよび店頭デリバティブ取引のカウンターパーティーリスクがあります。

透明性リスク:保有状況、価格等のデータが限定的のため、他の投資と比較し透明性が低いです。

規制リスク:投資信託や他の多くのプール型投資のような規制の対象ではありません。

Nathan-Ritsko

ネイサン・リツコ

インベストメント・ディレクター
Eric-Krusell

エリック・クルッセル

インベストメント・スペシャリスト