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バイオテクノロジーセクターに強気な理由

2022-12-31
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バイオテクノロジーセクターの中でも特に中小型株式は、2021年に大きな不振に見舞われ、投資家心理も弱気に傾いています。しかし、同セクターに対する逆風は弱まってきており、2022年以降追い風に変わると見込まれるため、私たちは強気の見方を崩していません。バイオテクノロジーセクターのイノベーション(革新)の勢いはこれまでにないほど増しています。株価の反転上昇への明確なタイミングやきっかけは現時点ではつかめていませんが、バイオテクノロジー関連銘柄の多くは底値圏にあるとみられます。

2021年は逆風の痛手

バイオテクノロジーセクターの中小型株式で構成されたS&Pバイオテクノロジー・セレクト・インダストリー・インデックスは、2021年2月初旬のピークから2022年2月半ばまでに49%下落し、広範なヘルスケアセクターや米国の株式市場と比較して大きく出遅れました。同インデックスの下落は2006 年の設定以来、最も大幅で長く続きました。バイオテクノロジーの大型株式のパフォーマンスも中小型株式ほどではないものの、同じ期間に低迷しました。

2021年は規制当局の先行き不透明感、薬価の問題、新規株式公開(IPO)の急増、M&A(合併・買収)の減少、株価上昇の反動など多くの課題がバイオテクノロジーセクターに重くのしかかりました。最近では、米国連邦準備理事会(FRB)がインフレ圧力に向けて金融引き締めを進める考えを示しており、金利上昇の懸念がクローズアップされています。しかし、2022年に入りほとんどの課題は収まりつつあり、以下のとおりいくつかのケースでは追い風に転じているため、私たちは強気な見方を維持しています。

2021年の不振と今後の見通し

米食品医薬品局(FDA)の混乱
FDA長官にロバート・カリフ氏が任命されました。カリフ氏はオバマ政権の2016年から2017年までFDA長官を務め、今回で2度目の就任となります。カリフ氏は新型コロナウイルス禍で多大な重圧の中にいるFDAを安定させ、士気を高めるとみられ、私たちは今回の就任に前向きな見方を持っています。また、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬などのFDAの負担軽減を促し、他の新薬の承認や優先事項が進むと期待されます。

薬価改正法案への懸念
医薬品の価格を引き下げるための大幅な法改正という米国の薬価制度の見直しにとっての最悪のシナリオは、当面避けられた模様です。バイデン大統領の「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)法案」は上院での審議が暗礁に乗り上げており、私たちの基本シナリオでは薬価引き下げに向けた法改正案の2022年中(あるいは2023年、2024年)の成立は難しいと見ています。また、米国の高齢者向け公的医療保険「メディケア・パートD(外来処方薬給付)」において製薬会社と処方薬の価格を限定的に交渉できるようにする法改正案は、今年中に成立する可能性があり、バイオテクノロジーセクターはその恩恵が見込まれます。

新規株式公開(IPO)の急増
2021年のバイオテクノロジー関連のIPO企業数は82社(2020年69社、2019年41社)に上りました。それらの企業の多くは、自社の医薬品が臨床試験(治験)の段階に至るまで数年かかる、あるいは試験データの提供や規制当局による新薬審査にはさらに年月がかかる状態にありました。すなわち、それらは上場するには程遠い企業だったと言えます。2022年はIPOが減速し(年初来2月時点でIPO企業数は4件、いずれも自社の治療薬が臨床試験の段階)、需給は改善方向に向かうと予想されます。

M&A(合併・買収)の減少
2021年のバイオテクノロジー関連のM&A件数および規模ともに例年より減少しました。その理由として、1) 多くの売り手企業が2020年以降、過剰に高いバリュエーションを期待していたこと、2) 多くの買い手企業が米連邦取引委員会(FTC)の監視に慎重な姿勢を示していたことなどが挙げられます。ただし、2022年には売り手企業の高望みは解消されるとみられます。また、多くの買い手企業は潤沢な資金を保有しており、時間の経過と共に規制に対する慎重姿勢も和らぐとみられ、注意深く見守る必要があると考えます。

株価上昇の反動
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け2020年3月に下落したバイオテクノロジーセクターの株価は、革新的な治療薬の開発への期待感から同年後半に大きく好転し史上最高値を更新しました。その後、2021年に資金流入が大きく減り、バイオテクノロジーセクターはコロナの勝ち組から負け組へと転落しました。しかし、それと同時に同セクターの中小型株式のバリュエーションは2022年初めに50%近く修正されたことにより、底値圏の割安な水準にあるとみられます。

バイオテクノロジーセクターにとってこの1年余り試練が続きましたが、上記の理由から今こそ同セクターを見直す好機ではないかと考えます。

 

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ウェン・シー

グローバル産業アナリスト