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気候変動、高まる適応策の重要性

2022-12-31
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国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今年2月、気候変動による影響と、その「適応」策や脆弱性に関する科学的知見をまとめた「第6次評価報告」を公表しました。報告書の概要部分だけでも気候変動の影響への「緩和」策に関する言及が60回、それに対して「適応」策 については442回に及び重要性が増していることが伺えます。さらに同報告書では、生物多様性、水、食料、健康などの課題のほか、多くの地域や部門で気候変動への適応の失敗が社会の不平等を増幅させるリスクにつながると警鐘を鳴らしています。

適応策への投資促す

IPCCは「現在計画・実施されている気候リスクの管理および適応の多くは漸進的である」と指摘し、世界に気候変動への備えと同時に、気象の変化や災害に対する「適応」策への設備投資を進めるべきとの強いメッセージを発しています。

海面上昇や海岸浸食などの気候変動の影響に適応するために、防潮堤や排水設備などの海岸保全施設が進んでいる湾岸隣接地域では、「インフラの維持費が大幅に増加すると予想され、海面上昇が財政的・技術的に限界に達した場合、数百万人の人口移動につながる可能性があり、体系的変更も必要になる」と言及しています。

生物多様性の保全・保護

同報告書では、「地球規模での生物多様性の保護および生態系のレジリエンス(回復力・耐性)の維持は、現在自然に近い状態にある生態系を含む地球の陸域、淡水、海洋の約30%〜50%の効果的かつ衡平な保全に依存する」と分析しています。

水不足が深刻化

さらにIPCCは、「現在、世界人口の半数が気候やその他の要因により1年間に少なくとも1カ月以上、深刻な水不足の状態に陥っている」と警告しています。また、異常気象の増加と対応の脆弱性を背景に、「干ばつや洪水が社会に与えるインパクト、農業やエネルギーの生産への打撃、感染症の発生などが増加する」と指摘しています。

気候変動は世界共通の課題

地球温暖化により感染症の拡大リスクが増しており、世界の主要会議で人々の健康と気候変動が頻繁に議題として取り上げられています。IPCCは、コロナウイルスの世界的な感染拡大を一つの教訓とし、社会の脆弱性とSDGs(持続可能性)の一環としての気候変動対策の重要性を強調しています。ウエリントンとウッドウェル気候研究センターの共同調査でも、気候変動は特に低所得層や社会的弱者に大きな影響を与えることが明らかになっています。

気候変動の影響は今後、人道的な悲劇、地政学リスクを引き起こすおそれがあります。軍事・防衛分野の気候変動のレジリエンス、水資源をめぐる紛争、異常気象や気象災害による人口移動などは、国家安全保障上の課題として重視されていくでしょう。昨今のコロナ危機やロシアのウクライナ侵攻に対する世界の対応と同じく、気候変動対策も国際協調が重要になっていくと考えます。

chris goolgasian

クリス・グールゲイジアン

クライメート・リサーチ・
ディレクター